外科矯正とマウスピース矯正は併用できる?適応・流れ・デメリットを解説

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外科矯正とマウスピース矯正は併用できる?適応・流れ・デメリットを解説

外科矯正とマウスピース矯正は併用できる?適応・流れ・デメリットを解説

外科矯正とマウスピース矯正は併用できるのか、治療の流れや向き不向きが気になっている方も多いのではないでしょうか。

結論からお伝えすると、すべての外科矯正でマウスピースが使えるわけではなく、骨格のずれの程度や歯並びの状態によって、適応の可否や治療方法は大きく変わります。

この記事では、外科矯正とマウスピース矯正を併用できるケース・難しいケース、治療の流れを解説します。

外科矯正とは

外科矯正とは

外科矯正とは、顎の骨格にずれや変形がある場合に、外科手術によって顎の位置を正しく整える治療法です。通常の矯正治療(ワイヤー矯正やマウスピース矯正)だけでは改善できない、骨格性の不正咬合(受け口・出っ歯・顔の非対称など)に適応されます。

この治療では、矯正歯科治療と外科手術を組み合わせて行うのが特徴です。手術によって顎の骨格そのものを動かすため、咬み合わせの改善に加えて、横顔やフェイスラインなどの見た目も大きく変化します。

さらに、顎の位置を正しく整えることで、噛む・話す・呼吸するといった機能面の改善も期待できます。審美性と機能性の両面から根本的な改善を図る治療法といえるでしょう。

マウスピース矯正とは

マウスピース矯正とは

マウスピース矯正とは、透明なマウスピース(アライナー)を一定期間ごとに交換しながら、歯を少しずつ理想の位置へ動かしていく矯正方法です。装置が透明で目立ちにくく、食事や歯みがきの際に取り外しができるメリットがあります。

マウスピース矯正は、軽度〜中等度の歯列不正(出っ歯・すきっ歯・軽い叢生など)に適しており、歯並びを整える「歯列矯正」を主な目的としています。従来のワイヤー矯正に比べて見た目が自然で、日常生活への支障が少ないことも大きなメリットです。

ただし、顎の骨格的なずれが大きい症例(受け口・左右非対称など)では、マウスピース矯正だけでの改善は難しい場合があります。そのような場合には、外科矯正と組み合わせて行うことで、機能面と審美面の両立を図ることができます。

外科矯正でマウスピースは併用できる?

外科矯正でマウスピースは併用できる?

近年では、外科矯正の一部工程でマウスピース型矯正装置(インビザラインなど)を併用するケースも増えています

術前や術後の歯の位置調整をマウスピースで行うことで、見た目の自然さや装着時の快適性を保ちながら治療を進められるのが特徴です。

マウスピース矯正は、取り外しができるため口腔内を清潔に保ちやすく、治療中のストレスを軽減できる点もメリットです。術前矯正では手術に最適な歯列位置の調整、術後矯正では噛み合わせの微調整に活用されることがあります。

ただし、骨格の大きな移動や複雑な歯体移動が必要な場合は、従来どおりワイヤー矯正のほうが精密なコントロールに適しています。

そのため、症例によってマウスピースの併用が可能かどうかは異なり、矯正歯科医と口腔外科医が連携した精密な診断が重要となります。

マウスピース併用が向いているケース

マウスピース併用が向いているケース

マウスピース併用は、外科矯正の中でも特に「見た目や快適さを保ちながら治療を進めたいケース」に適している方法です。

マウスピース併用が向いているケースは以下のとおりです。

  • 軽〜中等度の骨格性不正+歯列不正の症例
  • 装置を目立たせたくない成人症例
  • 術後の仕上げ・保定での活用

それぞれについて詳しく解説します。

軽〜中等度の骨格性不正+歯列不正の症例

マウスピース矯正は、骨格のずれが比較的軽度で、主に歯の位置や角度を整えることが目的の症例に向いています

ワイヤー矯正のように強い力を持続的にかけることは難しいものの、術前・術後の歯列微調整や最終的な噛み合わせの仕上げ段階で有効に活用できます。

とくに、見た目や装着感を重視しながら治療を進めたい人にとって、マウスピース併用は大きなメリットです。

外科矯正全体の流れの中で、機能的・審美的な最終調整を行う手段として取り入れられるケースが増えています。

装置を目立たせたくない成人症例

仕事や人前で話す機会が多いなど、見た目を重視する成人患者では、外科矯正にマウスピース矯正を併用することで治療中の審美性を保つことができます。

マウスピースは透明で目立ちにくいため、写真撮影や会話の際にも装置がほとんど気にならず、接客業・営業職などの人でも負担が少ないのが特徴です。

また、取り外しが可能なため、食事や歯磨きの際に清潔を保ちやすいという衛生面でのメリットもあります。

社会生活を維持しながら矯正治療を進めたい人にとって、マウスピース併用は現実的で快適な選択肢といえるでしょう。

術後の仕上げ・保定での活用

外科矯正の手術後は、骨格が正しい位置に整った状態に合わせて歯の位置を微調整する「術後矯正」を行います。この段階では、手術前のような大きな歯の移動は少なく、マウスピース矯正による細かな調整や保定が効果的です。

マウスピースは透明で取り外しができるため、術後の腫れや違和感が残る時期でも快適に使用できるのが利点です。また、金属を使わないため口腔内への刺激も少なく、日常生活への影響を最小限に抑えられます。

さらに、術後矯正が完了した後も、保定装置(リテーナー)として継続使用できるため、歯並びや咬み合わせの安定を長期間保つことができます。

マウスピース併用が難しいケース

マウスピース併用が難しいケース

マウスピース併用が難しいケースは以下のとおりです。

  • 重度の骨格ずれ・開咬・非対称
  • 重度の歯周病がある場合
  • 多数のインプラントや埋伏歯(まいふくし)がある場合
  • 装置の自己管理が難しい場合(装着時間・清掃など)

それぞれについて詳しく解説します。

重度の骨格ずれ・開咬・非対称

顎の前後・左右のずれが大きい場合や、開咬(奥歯を噛んでも前歯が閉じない状態)などの重度な骨格性不正咬合では、マウスピース矯正単独での対応は難しいとされています。

これらの症例では、歯の位置だけでなく顎全体の骨格を移動させる外科的処置が必要になるためです。一般的にはワイヤー矯正や骨固定装置を併用して治療を行います。

重度の歯周病がある場合

重度の歯周病がある場合は、歯槽骨(しそうこつ:歯を支える骨)が弱くなっているため、マウスピース矯正による力のかかり方で歯の動揺や位置の不安定化が起こるおそれがあります。

外科矯正を行う際にも、骨の支持力が不十分だと手術後の安定性に影響する可能性があります。

そのため、歯周病がある場合は、まず歯周治療を優先して炎症や骨吸収をコントロールすることが重要です。歯肉の健康状態を改善してから矯正や外科手術を検討することで、より安全かつ長期的に安定した結果を得ることができます。

多数のインプラントや埋伏歯がある場合

インプラントは骨と結合して固定されているため動かすことができず、その周囲の歯をマウスピース矯正で移動させる際に制約が生じます。

また、埋伏歯(まいふくし:骨の中に埋まったまま生えていない歯)がある場合も、歯の移動計画に影響を与える要因となります。埋伏歯は周囲の骨構造を変化させる可能性があり、マウスピース矯正単独では対応が難しいケースが多いです。

装置の自己管理が難しい場合(装着時間・清掃など)

マウスピース矯正では、1日20時間以上の装着や定期的な交換・清掃といった自己管理が欠かせません。これらを怠ると、歯の移動が計画どおりに進まず、治療期間が延びたり効果が十分に得られないリスクがあります。

外科矯正では、手術前後に歯列の安定が重要になりますが、装置の管理が不十分だと咬み合わせの調整にズレが生じるおそれがあります。とくに、手術後の腫れや痛みによって装着時間が短くなると、歯の位置がわずかにずれたり、アライナー(マウスピース)が合わなくなるケースもあります。

そのため、装着の習慣化やメンテナンスに不安がある場合には、より確実に歯の位置をコントロールできるワイヤー矯正主体の治療を選択する方が安心です。自分のライフスタイルや性格に合わせて装置を選ぶことが、外科矯正を成功させる大切なポイントです。

外科矯正とマウスピースの併用治療の流れ

外科矯正とマウスピースの併用治療の流れ

外科矯正とマウスピースを併用する場合の治療の流れは以下のとおりです。

  • 初診・精密検査
  • 術前矯正
  • 顎の手術
  • 術後矯正と保定

それぞれについて詳しく解説します。

初診・精密検査

外科矯正とマウスピース併用治療を行う場合、まずは顔全体のバランスや顎の位置、咬み合わせの状態を詳細に確認します。CT撮影やセファログラム(頭部X線)、歯列模型などを用いて、骨格構造と歯並びの関係を精密に分析するのが最初のステップです。

そのうえで、マウスピース矯正がどの範囲まで適用できるかを判断し、術前矯正・術後矯正のどの段階で活用できるかをシミュレーションします。歯の移動量や顎の骨格的ずれの程度を評価し、治療全体の流れを設計します。

顎変形症の程度が大きい場合や、骨格移動が必要なケースでは、ワイヤー矯正との併用を提案されることもあります。

術前矯正

外科矯正では、手術に先立って上下の歯を正しい位置関係に整える「術前矯正」を行います。手術で顎の骨を正しい位置に動かした際に、咬み合わせがぴたりと合うようにするための大切な準備です。

マウスピース矯正を使用する場合は、主に軽度の歯列調整や歯軸の傾き修正を目的として行われます。

一方で、大きな歯の移動や強い固定力が必要なケースでは、マウスピースだけでは対応が難しいことがあります。その場合は、ワイヤー矯正やハイブリッド法(ワイヤーとマウスピースの併用)を選択することで、精密かつ安定した歯列調整が可能になります。

顎の手術

外科矯正の中心となる工程が、顎の骨を適切な位置に移動させる外科手術です。手術では、上顎・下顎、またはその両方の骨をミリ単位で調整し、咬み合わせと顔全体のバランスを整えます。

この段階では、マウスピース矯正は使用せず、顎の骨格を安定させることを最優先とします。手術後の骨の固定や噛み合わせの維持には、ワイヤーや固定装置(スプリントなど)が用いられることが一般的です。

骨の位置が安定するまでの期間は、食事や会話などにも制限が設けられます。

術後矯正と保定

外科矯正手術の後は、骨格が正しい位置に整った状態に合わせて歯の微調整を行う「術後矯正」を実施します。この工程では、手術によって得られた咬み合わせをさらに精密に仕上げ、噛みやすさと見た目の自然さを両立させます。

この段階でマウスピース矯正を使用することで、装置が目立たず審美性を保ちながら歯列の微調整が可能です。透明で取り外しができるため、術後の腫れや違和感が残る時期でも快適に装着できます。

治療が完了したあとは、保定用のマウスピース(リテーナー)を使用し、歯並びと咬み合わせの安定を維持します。定期的な通院で骨の癒合と歯列の安定を確認し、後戻りを防止することが大切です。

サージェリー・ファースト(外科手術先行型)について

サージェリー・ファースト(外科手術先行型)について

サージェリー・ファースト(Surgery First)とは、従来の「術前矯正 → 手術 → 術後矯正」という流れとは異なり、外科手術を先に行う治療法です。まず手術によって顎の骨格のずれを改善し、その後に歯の細かな位置調整を行います。

この方法の最大の特徴は、見た目の変化を早期に実感できることです。術前矯正を省くため、顎の位置を整えた直後から顔貌のバランスが改善され、心理的な負担も軽減されます。

一方で、術前矯正を行わない分、手術前の咬み合わせを仮想的に設計(セットアップ)する精密な計画が不可欠です。3Dシミュレーションを用いて、術後の歯列や顎の位置を高精度に予測する必要があります。

また、すべての症例に適応できるわけではなく、顎変形の程度・歯列の乱れ・噛み合わせの複雑さによっては、従来型が適している場合もあります。

当院では、従来の外科矯正に加えて「サージェリーアーリー」(手術時期を早めた治療法)にも対応しています。RAP・SAP効果を活かした治療システムにより、従来の外科矯正に比べて治療期間を大幅に短縮することが可能です。治療期間を短くしたい方は、ぜひご相談ください。

外科矯正とマウスピースを併用するメリット

外科矯正とマウスピースを併用するメリット

外科矯正にマウスピース矯正を組み合わせることで、見た目を気にせず治療を進められるという大きな審美的メリットがあります。透明な装置を使用するため、装着中でもほとんど目立たず、仕事や人前に立つ機会の多い人にも適しています。

また、取り外しが可能なため、食事や歯みがきの際に装置を外して口腔内を清潔に保ちやすく、虫歯や歯周病などのトラブルを防ぐことが可能です。

術前・術後の歯の微調整も快適に行えるうえ、話す際の違和感が少ないのも特徴です。さらに、見た目や生活へのストレスを抑えられることで、長期間にわたる外科矯正治療へのモチベーションを維持しやすいという心理的な利点もあります。

外科矯正とマウスピースを併用するデメリット

外科矯正とマウスピースを併用するデメリット

マウスピース矯正はワイヤー矯正に比べて歯を動かす力が弱いため、複雑な歯の移動や大きな咬み合わせの修正には不向きなケースがあります。

また、1日20時間以上の装着が必要であり、自己管理が不十分だと歯が予定どおりに動かず、治療期間が延びるリスクもあります。とくに外科矯正は手術との連携が前提となるため、スケジュール通りに歯を動かすことが非常に重要です。

さらに、骨格的なずれが大きい症例(受け口・開咬・顔の非対称など)では、マウスピース併用が難しい、または治療効果が限定的になることもあります。

治療前には必ず矯正歯科医と口腔外科医による精密な診断を受け、適応可否を見極めることが大切です。

まとめ

外科矯正とマウスピース矯正は併用可能なケースがありますが、すべての症例に適しているわけではありません。

骨格のずれが大きい場合や複雑な歯の移動が必要な場合は、ワイヤー矯正のほうが精密な制御ができるため優先されます。

一方で、術前・術後の微調整や見た目の自然さを重視する場面では、マウスピース矯正が有効に活用できます。

快適さ・審美性・治療精度のバランスは人によって異なるため、併用の可否は精密検査と専門医の判断が欠かせません。

自分に合った治療方法を選ぶためにも、矯正歯科と口腔外科の連携による診断を受け、治療計画を丁寧に検討することが大切です。

この記事の監修者

山之内矯正歯科クリニック 院長山之内 哲治
山之内 哲治

矯正歯科臨床38年以上の経験を持ち、外科矯正と呼吸機能改善を専門としています。口腔外科・形成外科・呼吸器内科など多領域の先生方と連携し、咬み合わせの問題を骨格から見直す必要があるのか、歯列矯正で対応できるのかを慎重に見極めた治療を行っています。

経歴

  • 1984年:岡山大学歯学部附属病院 研究生・医員
  • 1986年:光輝病院勤務、岡山大学歯学部附属病院 助手
  • 1987年:米国ロヨラ大学 Dr.Aobaのもとへ留学
  • 1998年:岡山大学歯学部 退職
  • 2000年:山之内矯正歯科クリニック 開院
  • 2004年:日本矯正歯科学会 優秀発表賞受賞
  • 2011年:日本臨床矯正歯科医会 アンコール賞受賞