2025/12/24

「外科矯正ってどんな治療?」
「普通の矯正と何が違うの?」
このような疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。
外科矯正は、歯だけでなく「顎の骨格そのもの」にズレや変形がある場合に、矯正治療と外科手術を組み合わせて整える治療法です。見た目の改善だけでなく、咬み合わせ・発音・呼吸など、生活のしやすさにも大きく関わる重要な治療といえます。
この記事では、外科矯正の基本的な仕組みや通常の矯正との違い、代表的な手術の種類をわかりやすく解説します。

外科矯正とは、顎の骨格にずれや変形があることで歯並びや咬み合わせに問題が生じている場合に行う治療です。一般的な矯正歯科治療(ワイヤー矯正やマウスピース矯正)に加え、外科的な手術で顎の骨を正しい位置に整えるのが特徴です。
この治療は見た目の改善だけでなく、咬み合わせや発音、呼吸機能などを総合的に改善することを目的としています。顎の位置や骨格のバランスを整えることで、顔貌の調和と機能の回復を同時に実現できます。
手術前後の歯列矯正や咬合調整が必要となるため、口腔外科と矯正歯科が連携して治療を行います。骨格レベルから問題を見直したい方に適した治療法です。
当院でも、必要に応じて口腔外科と連携し、外科矯正の適応を咬み合わせや顎の成長バランス、日常生活への影響などを踏まえて総合的に判断し、患者さまと相談しながら進めています。

通常の矯正治療は、歯に矯正装置をつけて少しずつ位置を動かし、歯並びや咬み合わせを整える方法です。主に歯列の不正を対象としており、骨格的なずれがない場合に効果的です。
一方、外科矯正は顎の骨格そのものにずれや変形がある場合に行う治療で、手術によって骨の位置を修正する点が大きな違いです。顎の大きさや位置の問題は、歯の移動だけでは改善が難しいため、外科手術と矯正治療を組み合わせて根本から整えます。
その分、治療期間や準備工程は通常の矯正よりも長くなりますが、咬み合わせの改善だけでなく、顔貌のバランスを整える効果も大きいのが特徴です。外科矯正は見た目と機能の両方を高いレベルで改善したい方に適した治療法といえます。

外科矯正が必要とされるのは、歯並びだけでなく顎の骨格そのものにズレや位置異常があるケースです。
代表的な症例は以下のとおりです。
それぞれについて詳しく解説します。
下顎前突は、下顎が上顎よりも前方に突出している、一般的に「受け口」と呼ばれる状態です。歯の傾きによる軽度のものは矯正治療のみで改善できる場合もありますが、顎の骨そのものが前方に位置している場合は、外科矯正の対象となります。
受け口の状態は咬み合わせが反対になり、食べ物をうまく噛めない・発音がしにくいといった機能的な問題が生じやすくなります。また、下顎が突出しているために、口元が出ている印象を与えることも少なくありません。
外科矯正によって顎の位置を適切に整えることで、見た目のバランスが改善されるだけでなく、咀嚼や発音といった機能面の回復にもつながります。
上顎前突は、上顎が前方に出ている、または下顎が後方に引っ込んでいることで、前歯が大きく前に傾いて見える状態を指します。
歯の傾きだけが原因であれば矯正治療のみで改善できる場合もありますが、顎の骨格そのものに問題がある場合は、外科矯正による骨格の位置調整が必要となります。
上顎前突では、口が閉じにくい、前歯の露出が目立つ、発音がしづらいなどの機能的・審美的な問題を伴うことが多いです。また、唇が常に開き気味になることで口呼吸の習慣がつきやすく、口腔内の乾燥や虫歯のリスクが高まることもあります。
外科矯正によって顎の位置を整えることで、顔全体のバランスが改善され、横顔のライン(Eライン)も自然で調和のとれた形に近づきます。
顔の左右非対称は、顎の骨が左右のどちらかにずれている、または成長のバランスに差があることで起こります。下顎の歪みが原因となるケースが多く、咬み合わせが左右どちらかに偏ることで、噛みにくさや顎関節への負担が生じることがあります。
見た目のゆがみだけでなく、顎関節症や咀嚼筋(噛む筋肉)のこり、片頭痛などの症状を引き起こすことも少なくありません。長期間放置すると、片側の筋肉が過剰に発達し、さらに非対称が強調されることもあります。
骨格のずれが大きい場合は、外科矯正によって顎の位置を正中(顔の中心)に合わせることで、顔貌のバランスと咬み合わせの両方を改善できます。
開咬は、奥歯を咬み合わせても上下の前歯が閉じず、前歯の間にすき間ができる状態を指します。指しゃぶりや舌を前に押し出す癖(舌癖)などの習慣が原因となることもありますが、顎の骨格のずれが関係している場合は、外科矯正による治療が必要です。
開咬は前歯で食べ物を噛み切ることが難しく、発音が不明瞭になったり、口呼吸が続いたりすることが多く見られます。さらに、上下の顎の位置関係が乱れているため、顎関節や咬合筋に負担がかかりやすくなります。

外科矯正には、症例に応じて複数の手術方法があります。顎の位置や変形の度合いに合わせて最適な術式が選ばれます。
代表的な手術の種類は以下のとおりです。
それぞれについて詳しく解説します。
上下顎移動術は、上顎と下顎の両方を外科的に移動させて位置関係を整える手術です。受け口や顔の左右非対称、開咬など、上下の顎のずれが大きい症例に適用されます。
この手術では、上顎と下顎の骨をバランスよく移動させることで、咬み合わせの改善はもちろん、横顔や輪郭の調和も図ることができます。顎全体の位置関係を整えるため、見た目と機能の両面で効果が高いのが特徴です。
手術は全身麻酔で行われ、術後は数日間の入院が必要となります。
下顎枝矢状分割術(かがくししじょうぶんかつじゅつ)(SSRO)は、下顎の骨を前方または後方に移動させて、咬み合わせや顎の位置を整える手術です。下顎の骨を左右で分割し、ずれのある骨を適切な位置に再固定することで、受け口や出っ歯、顎の偏位などを改善します。
この手術の特徴は、骨の接触面が広く取れるため安定性が高い点です。骨同士がしっかりと噛み合うことで、術後の固定が安定しやすく、顎関節への負担を最小限に抑えながら自然な位置に調整できます。
SSROは外科矯正の中でも広く行われている基本的な手術法で、見た目と機能の両面で高い改善効果が期待できます。
上顎骨切り術(Le Fort Ⅰ型骨切り術)は、上顎の骨を水平方向に切り離し、前後・上下・左右へ移動させて位置を整える手術です。
上顎が出ている、または後退している症例、開咬や顔の左右非対称など、上顎の位置異常が原因となる咬み合わせの改善に適応されます。
この手術では、上顎の高さや角度を精密に調整できるため、咬み合わせの改善に加えて、鼻や口元のバランスを整える効果も期待できます。顔全体の印象を自然で調和のとれた形に導けるのが大きな特徴です。
また、下顎枝矢状分割術(SSRO)と併用して行われることも多く、上下の顎の位置関係を総合的に整えることで、より自然な顔貌と安定した機能の回復を目指します。
オトガイ形成術は、顎先(オトガイ)部分の骨を前後・上下に移動させて、形や位置を整える手術です。下顎全体ではなく顎先のみを調整するため、咬み合わせへの影響が少なく、主に顔貌バランスの改善を目的として行われます。
顎が後退している場合には骨を前方へ移動させ、逆に顎が長い場合には短くするなど、骨の一部を削ったり固定位置を調整したりして自然な輪郭に整えます。顔の中心ラインを整えることで、横顔のバランスやフェイスライン全体の印象を改善する効果もあります。
外科矯正手術と併用されることも多く、機能面を補いながら審美的にも整った顔立ちを実現できる手術です。

外科矯正は、精密検査から術前矯正、手術、術後の仕上げまで段階を踏んで進められます。治療全体の流れを理解しておくと、スケジュールや負担を想定しやすくなります。
治療の流れは以下のとおりです。
それぞれについて詳しく解説します。
外科矯正を行う前には、まずレントゲン(セファロ)やCT撮影、顔貌写真の撮影、歯型の採取などの精密検査を実施します。顎の骨格構造や歯並び、咬み合わせの状態を詳細に分析し、問題の根本を把握することが可能です。
検査結果をもとに、矯正歯科と口腔外科が連携して治療方針を立案します。骨格のずれの程度や顔貌のバランス、咬合の安定性などを総合的に評価し、手術法と矯正計画を決定します。
また、クリニックによっては3Dシミュレーションを行い、手術後の顔貌や咬み合わせの変化を事前に確認することも可能です。
外科矯正では、手術に入る前に歯を理想的な位置へ整えるための「術前矯正」を行います。術前矯正は、骨の位置を正確に動かすための準備段階で、手術後に安定した咬み合わせを得るために欠かせない工程です。
術前矯正の期間中は、歯を正しい位置に移動させるために、あえて一時的に咬み合わせが悪く見えるように調整することもあります。見た目の変化に不安を感じる場合もありますが、手術後に理想的な咬合へと導くための大切なステップです。
術前矯正の期間はおおよそ1〜2年が目安となりますが、歯並びや骨格の状態によって個人差があります。
術前矯正が完了したら、全身麻酔下で顎の骨を切り、適切な位置に移動させて固定する「骨切り術」を行います。下顎のみ・上顎のみ、または上下両顎を同時に移動させるケースがあります。
骨の移動後は、チタン製のプレートやスクリューでしっかりと固定し、咬み合わせの安定を保ちながら骨の癒合を待ちます。これにより、見た目のバランスと機能的な咬合の両方を整えることが可能です。
手術後は数日〜1週間ほど入院し、腫れや痛みが落ち着くまで経過を観察します。術後の腫れは2〜3日をピークに徐々に引いていきますが、無理をせず安静を保つことが大切です。
手術後は、骨の位置が安定してから再び矯正装置を調整し、歯の細かな位置や咬み合わせを整えていきます。手術で整えた骨格に対して、歯を理想的な位置に微調整する重要な段階です。
術後矯正の期間はおおよそ6ヶ月〜1年ほどが目安とされ、経過観察を重ねながら咬み合わせの安定性を確認します。骨の癒合や筋肉のバランスを見ながら慎重に進めることで、長期的に安定した結果が得られます。
治療が完了した後も、保定装置(リテーナー)を一定期間使用し、歯並びや咬み合わせの後戻りを防ぐことが大切です。定期的な通院とメンテナンスを続けることで、機能面・審美面ともに安定した状態を維持できます。

外科矯正は、矯正治療と外科手術を組み合わせて行うため、一般的な矯正治療よりも費用が高くなる傾向があります。矯正装置の種類や手術の内容、入院期間などによって総額は大きく変わります。
ただし、顎変形症などの機能的な問題が原因の場合は、健康保険が適用されるケースもあります。その場合、自己負担はおおよそ40〜60万円程度が目安です。
一方で、見た目の改善を目的とした審美的な外科矯正や軽度の不正咬合に対する治療は、原則として自費診療となります。費用は総額で100〜200万円前後かかることが一般的です。
治療内容や医療機関によって費用構成は異なるため、事前に見積もりを確認し、十分な説明を受けてから治療を検討することが大切です。

外科矯正は高い効果が期待できる一方で、手術を伴うため一定のリスクを伴います。
術後には一時的な腫れやしびれ、痛み、感覚の鈍さなどが生じることがありますが、時間の経過とともに自然に回復するケースがほとんどです。
ただし、まれに神経や顎関節への負担が残る場合や、咬み合わせが完全に安定するまでに時間がかかるケースもあります。とくに下顎を動かす手術では、オトガイ神経への影響による一時的なしびれが起こることがあります。
リスクを最小限に抑えるためには、手術前後の管理と定期的な通院をきちんと行うことが大切です。医師の指示に従って術後ケアを続けることで、後戻りや合併症を防ぎ、より安定した結果を得ることができます。

外科矯正は、歯並びだけでは改善できない顎の骨格的なずれを、矯正治療と外科手術を組み合わせて根本から整える治療です。
受け口・出っ歯・顔の左右非対称・開咬など、骨格そのものに原因がある場合に適応され、見た目のバランスだけでなく機能面の改善にもつながります。
通常の矯正より期間は長くなるものの、骨格レベルから整えられるため高い治療効果が期待できます。
一方で、手術に伴う腫れ・しびれなどのリスクやダウンタイムもあるため、事前に十分な説明を受け、矯正歯科と口腔外科が連携する医療機関を選ぶことが大切です。
顎のズレや咬み合わせの悩みが続く場合は、一度専門医へ相談し、自分に適した治療法を確認することをおすすめします。