2025/12/25

小児矯正ではヘッドギアと呼ばれる装置を用いることがあります。ヘッドギアは奥歯と頭部を固定して使うもので、上あごの成長を抑える効果があります。
小児矯正にはさまざまな選択肢があり、技術も大きく進歩していることから「ヘッドギアは古い」と思われがちです。確かに歴史のある装置ではありますが、現代でも効果的な治療法であり、決して廃れているわけではありません。
本記事では小児矯正で用いるヘッドギアの基礎知識をわかりやすく解説します。効果や使い方、費用などもまとめているので、小児矯正を検討中の保護者様はぜひ参考にしてください。

ヘッドギアとは、上あごや奥歯の位置を整えるために使用する矯正器具です。主に上あごが前に出ている上顎前突(出っ歯)の治療に用いられます。
小児矯正でヘッドギアを使う目的は、上あごが前方に成長するのを抑えたり、上の奥歯を後ろへ動かして噛み合わせの土台を整えることです。
見た目のインパクトが大きい装置ですが、使用するのは在宅時間や就寝中なので学校生活への影響はほとんどないといっていいでしょう。
ヘッドギアにはいくつか種類があり、それぞれ得意な症例が異なります。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| ハイプルタイプ | もっとも一般的なヘッドギアで、頭部に装着するヘッドキャップ・上の奥歯にかけるバンド・力を伝えるフェイスボウで構成される。 |
| サービカルプルタイプ | 首の後ろにストラップをかける。後下方に力がかかるので、過蓋咬合を伴う上顎前突に用いられることが多い。 |
ヘッドギアの目的は上あごの成長をコントロールし、歯列を正しい位置に補正することです。成長期のあごの発育をうまく利用しながら骨格のバランスを整えます。
上あごの成長を抑えることは、上顎前突(出っ歯)の改善に役立ちます。噛み合わせのズレも修正できるので、将来的な不正咬合の予防にも効果的です。
歯並びや噛み合わせが改善すると、虫歯・歯周病・口臭・消化機能の低下・滑舌の悪化などの予防にも役立ちます。単に見た目が整うだけでなく歯と体両方の健康を支える効果が期待できます。
小児矯正におけるヘッドギアの適応年齢は、7〜10歳頃の混合歯列期です。この時期はあごの成長が活発で骨もやわらかく、矯正力が効果的に働きます。
永久歯が生え揃いはじめる12歳以降は骨格の成長がゆるやかになるため、ヘッドギア単独での治療効果は限定的です。したがって、永久歯列期は別の方法を選択することが多いです。
補足ですが、ヘッドギアは小児だけでなく成人矯正でも用いられることがあります。(主に前歯の後方移動量が大きい症例)
ただし、大人は時間や見た目の制約によって継続使用が難しいことも多いため、近年はアンカースクリュー(矯正用の小さなネジ)の使用が一般的になりつつあります。

小児矯正でヘッドギアを使うメリットには次のものがあります。
それぞれのメリットを詳しく解説します。
ヘッドギアの主な目的は、上あごの成長をコントロールし、歯列を正しい位置に整えることです。歯並びや噛み合わせが整うと顔全体のバランスも整います。
審美的なメリットだけでなく、虫歯や歯周病の予防、咀嚼・発音の改善にもつながり、結果として体の機能向上につながるのです。
ヘッドギアを装着するのは主に在宅中や就寝時で、学校や習い事に影響がありません。家族以外の人に見られることもないので、周囲を気にせずに治療を続けられます。
常時装着するものは痛みやストレスが心配ですが、取り外しできることでお子様の負担軽減にもつながります。
あごの大きさに対して歯が並ぶスペースが足りない時や、歯の重なりが大きく奥歯を後ろに動かす余地がないケースでは、抜歯をしてスペースを確保することがあります。
健康な歯を抜くことに抵抗がある方は非常に多く、親御さんとしてもできれば避けたいと考えるのは当然のことです。しかし、症例次第では抜歯した方がいいケースがあるのも事実です。
ヘッドギアであごの発育を適切にコントロールできると、将来的に歯を抜かずに矯正できる可能性が高まります。非抜歯で済めばその分治療期間は短くなり、治療費も抑えられるメリットがあります。

ヘッドギアにはメリットだけでなく、使用するうえで注意したいポイントもあります。
それぞれのデメリットも詳しく解説します。
ヘッドギアは1日12〜14時間以上の装着が推奨されています。使用時間は効果に影響するため、指示された時間はきちんと装着しなければなりません。
装着時間が短いと治療が長引いたり、歯やあごが計画通りに動かないことがあります。お子様だけでは装着時間の管理が難しいため、保護者様のフォローも必要です。
ヘッドギアには金属パーツがあり、衝突や転倒の危険があるシーンでは装着できません。とくに運動中は注意が必要で、自宅での運動時はヘッドギアを外し、安全を確保することが大切です。
また、子どもはきょうだい間で乱暴な遊びやケンカに発展しそうなことが多々あります。ヘッドギアは強い力が加わると装置が安全に外れる仕組みになっていますが、じゃれあいが激しくならないようご家族の見守りもお願いします。
もう一つ、睡眠中の装着について、保護者様からは「寝返りしづらい」「うつ伏せ寝が多いので心配」といった声をいただきます。最初は違和感が気になるかもしれませんが、ほとんどのお子様が数日〜数週間で慣れていくのでご安心ください。

ヘッドギアは古くからあるオーソドックスな治療法ゆえ「古い」「昔のやり方」といった印象を持たれがちですが、現在でも有用な治療法の一つです。
近年は矯正装置の進歩が急速に進み、マウスピース矯正のような目立ちにくく快適な治療法が増えています。しかし、ヘッドギアは上顎前突など特定の症状に大きな効果を発揮できる装置として、いまも現場で選ばれ続けています。
歯並びや噛み合わせ、骨格は人それぞれで異なるため、最適な方法を選び、必要に応じてその他の方法と組み合わせて使い分けることが大切です。

ヘッドギアは、使用方法を守ることではじめて効果を発揮します。歯科医の指示に従い、安全かつ効率的に治療を進めることができます。
一般的なハイプルタイプは、まず奥歯に装着した固定式のバンドとフェイスボウをつなげます。次に、後頭部の上の方にストラップを装着し、フェイスボウとつなげてベルトで張りを調整したら完了です。
首の後ろにストラップを装着するサービカルプルタイプも、奥歯のバンドとフェイスボウをつなげてからストラップをつなげます。
装着・取り外しは歯科医院で指導がありますが、お子様が慣れるまでは保護者様のフォローも必要です。ベルトの張力は効果に影響するので、指示通りに調整してください。
在宅中はできる限り装着するのが基本で、1日12〜14時間以上の装着が推奨されます。
個人差はありますが、ヘッドギアを用いた歯科矯正の治療期間は6ヶ月〜1年程度が目安です。上あごの成長や歯の移動状態を確認しながら、装着時間や牽引の強さを段階的に調整していきます。
小児矯正でヘッドギアを使用するのは第一期で、上あごの成長を抑えたり奥歯を後方に移動させるために使用します。一期終了後は第二期の本格矯正に移行します。
期間は歯の状態や装着時間の達成度で変わってくるので、お子様と保護者様で協力し合いながら治療を継続することが大切です。

ヘッドギアの費用は30万〜50万円程度が相場です。ただし、ほとんどのクリニックでは第一期治療にヘッドギアの費用を含めていることが多く、装置単体の料金として請求されるケースは少数です。
▼ヘッドギアを使用する小児矯正の費用内訳
小児矯正は医療費控除の対象になるケースが多いので、治療計画書や領収書は大切に保管しておくと安心です。

ヘッドギア矯正について、保護者様から多く寄せられるご質問に回答します。
ヘッドギアは装着している時間に比例して効果を発揮するものであり、指示された装着時間を守らないと十分な効果が得られません。
使用時間が短いと、治療期間が延びたり矯正計画の見直しが必要になることもあります。お子様だけでは装着時間の管理が難しいため、ご家族は見守りをお願いします。
横向きは装置のズレや変形のおそれがあるため、できるだけ仰向けで寝るのが理想です。
ヘッドギアを装着したまま寝るのは難しいように見えますが、子どもは適応力が高く、数日〜数週間で慣れていくことがほとんどです。どうしても違和感が気になる時は歯科医にご相談ください。
成人矯正でも使われることがありますが、小児矯正とは目的が異なります。
小児の場合はあごの骨の成長をコントロールする目的で使用しますが、骨の成長が止まっている成人では歯の位置調整として補助的に使用することがあります。
たとえば、歯を抜かずに奥歯を後方へ動かしたい時や、歯列の微調整をしたいケースではヘッドギアが有効です。ただし、近年は歯科矯正用のアンカースクリューが主流のため、成人矯正でヘッドギアを使うケースは減少傾向にあります。

ヘッドギアは成長期の子どもの骨格に働きかけられる矯正装置です。
装着時間のルールはありますが、正しく使い続けることで歯並びを整えることができます。小児矯正にはさまざまな選択肢があり、状態に合わせた治療を行うので、お子様の歯並びについて不安がある方は歯科医に相談してください。
山之内矯正歯科クリニックでは、お子様にとって負担の少ない治療をご提案しております。「出っ歯が気になる」「子どもが嫌がらないか心配」といったお悩みはお気軽にご相談ください。