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外科矯正とマウスピース矯正は併用できる?適応・流れ・デメリットを解説

外科矯正とマウスピース矯正は併用できる?適応・流れ・デメリットを解説

外科矯正とマウスピース矯正は併用できるのか、治療の流れや向き不向きが気になっている方も多いのではないでしょうか。

結論からお伝えすると、すべての外科矯正でマウスピースが使えるわけではなく、骨格のずれの程度や歯並びの状態によって、適応の可否や治療方法は大きく変わります。

この記事では、外科矯正とマウスピース矯正を併用できるケース・難しいケース、治療の流れを解説します。

外科矯正とは

外科矯正とは

外科矯正とは、顎の骨格にずれや変形がある場合に、外科手術によって顎の位置を正しく整える治療法です。通常の矯正治療(ワイヤー矯正やマウスピース矯正)だけでは改善できない、骨格性の不正咬合(受け口・出っ歯・顔の非対称など)に適応されます。

この治療では、矯正歯科治療と外科手術を組み合わせて行うのが特徴です。手術によって顎の骨格そのものを動かすため、咬み合わせの改善に加えて、横顔やフェイスラインなどの見た目も大きく変化します。

さらに、顎の位置を正しく整えることで、噛む・話す・呼吸するといった機能面の改善も期待できます。審美性と機能性の両面から根本的な改善を図る治療法といえるでしょう。

マウスピース矯正とは

マウスピース矯正とは

マウスピース矯正とは、透明なマウスピース(アライナー)を一定期間ごとに交換しながら、歯を少しずつ理想の位置へ動かしていく矯正方法です。装置が透明で目立ちにくく、食事や歯みがきの際に取り外しができるメリットがあります。

マウスピース矯正は、軽度〜中等度の歯列不正(出っ歯・すきっ歯・軽い叢生など)に適しており、歯並びを整える「歯列矯正」を主な目的としています。従来のワイヤー矯正に比べて見た目が自然で、日常生活への支障が少ないことも大きなメリットです。

ただし、顎の骨格的なずれが大きい症例(受け口・左右非対称など)では、マウスピース矯正だけでの改善は難しい場合があります。そのような場合には、外科矯正と組み合わせて行うことで、機能面と審美面の両立を図ることができます。

外科矯正でマウスピースは併用できる?

外科矯正でマウスピースは併用できる?

近年では、外科矯正の一部工程でマウスピース型矯正装置(インビザラインなど)を併用するケースも増えています

術前や術後の歯の位置調整をマウスピースで行うことで、見た目の自然さや装着時の快適性を保ちながら治療を進められるのが特徴です。

マウスピース矯正は、取り外しができるため口腔内を清潔に保ちやすく、治療中のストレスを軽減できる点もメリットです。術前矯正では手術に最適な歯列位置の調整、術後矯正では噛み合わせの微調整に活用されることがあります。

ただし、骨格の大きな移動や複雑な歯体移動が必要な場合は、従来どおりワイヤー矯正のほうが精密なコントロールに適しています。

そのため、症例によってマウスピースの併用が可能かどうかは異なり、矯正歯科医と口腔外科医が連携した精密な診断が重要となります。

マウスピース併用が向いているケース

マウスピース併用が向いているケース

マウスピース併用は、外科矯正の中でも特に「見た目や快適さを保ちながら治療を進めたいケース」に適している方法です。

マウスピース併用が向いているケースは以下のとおりです。

  • 軽〜中等度の骨格性不正+歯列不正の症例
  • 装置を目立たせたくない成人症例
  • 術後の仕上げ・保定での活用

それぞれについて詳しく解説します。

軽〜中等度の骨格性不正+歯列不正の症例

マウスピース矯正は、骨格のずれが比較的軽度で、主に歯の位置や角度を整えることが目的の症例に向いています

ワイヤー矯正のように強い力を持続的にかけることは難しいものの、術前・術後の歯列微調整や最終的な噛み合わせの仕上げ段階で有効に活用できます。

とくに、見た目や装着感を重視しながら治療を進めたい人にとって、マウスピース併用は大きなメリットです。

外科矯正全体の流れの中で、機能的・審美的な最終調整を行う手段として取り入れられるケースが増えています。

装置を目立たせたくない成人症例

仕事や人前で話す機会が多いなど、見た目を重視する成人患者では、外科矯正にマウスピース矯正を併用することで治療中の審美性を保つことができます。

マウスピースは透明で目立ちにくいため、写真撮影や会話の際にも装置がほとんど気にならず、接客業・営業職などの人でも負担が少ないのが特徴です。

また、取り外しが可能なため、食事や歯磨きの際に清潔を保ちやすいという衛生面でのメリットもあります。

社会生活を維持しながら矯正治療を進めたい人にとって、マウスピース併用は現実的で快適な選択肢といえるでしょう。

術後の仕上げ・保定での活用

外科矯正の手術後は、骨格が正しい位置に整った状態に合わせて歯の位置を微調整する「術後矯正」を行います。この段階では、手術前のような大きな歯の移動は少なく、マウスピース矯正による細かな調整や保定が効果的です。

マウスピースは透明で取り外しができるため、術後の腫れや違和感が残る時期でも快適に使用できるのが利点です。また、金属を使わないため口腔内への刺激も少なく、日常生活への影響を最小限に抑えられます。

さらに、術後矯正が完了した後も、保定装置(リテーナー)として継続使用できるため、歯並びや咬み合わせの安定を長期間保つことができます。

マウスピース併用が難しいケース

マウスピース併用が難しいケース

マウスピース併用が難しいケースは以下のとおりです。

  • 重度の骨格ずれ・開咬・非対称
  • 重度の歯周病がある場合
  • 多数のインプラントや埋伏歯(まいふくし)がある場合
  • 装置の自己管理が難しい場合(装着時間・清掃など)

それぞれについて詳しく解説します。

重度の骨格ずれ・開咬・非対称

顎の前後・左右のずれが大きい場合や、開咬(奥歯を噛んでも前歯が閉じない状態)などの重度な骨格性不正咬合では、マウスピース矯正単独での対応は難しいとされています。

これらの症例では、歯の位置だけでなく顎全体の骨格を移動させる外科的処置が必要になるためです。一般的にはワイヤー矯正や骨固定装置を併用して治療を行います。

重度の歯周病がある場合

重度の歯周病がある場合は、歯槽骨(しそうこつ:歯を支える骨)が弱くなっているため、マウスピース矯正による力のかかり方で歯の動揺や位置の不安定化が起こるおそれがあります。

外科矯正を行う際にも、骨の支持力が不十分だと手術後の安定性に影響する可能性があります。

そのため、歯周病がある場合は、まず歯周治療を優先して炎症や骨吸収をコントロールすることが重要です。歯肉の健康状態を改善してから矯正や外科手術を検討することで、より安全かつ長期的に安定した結果を得ることができます。

多数のインプラントや埋伏歯がある場合

インプラントは骨と結合して固定されているため動かすことができず、その周囲の歯をマウスピース矯正で移動させる際に制約が生じます。

また、埋伏歯(まいふくし:骨の中に埋まったまま生えていない歯)がある場合も、歯の移動計画に影響を与える要因となります。埋伏歯は周囲の骨構造を変化させる可能性があり、マウスピース矯正単独では対応が難しいケースが多いです。

装置の自己管理が難しい場合(装着時間・清掃など)

マウスピース矯正では、1日20時間以上の装着や定期的な交換・清掃といった自己管理が欠かせません。これらを怠ると、歯の移動が計画どおりに進まず、治療期間が延びたり効果が十分に得られないリスクがあります。

外科矯正では、手術前後に歯列の安定が重要になりますが、装置の管理が不十分だと咬み合わせの調整にズレが生じるおそれがあります。とくに、手術後の腫れや痛みによって装着時間が短くなると、歯の位置がわずかにずれたり、アライナー(マウスピース)が合わなくなるケースもあります。

そのため、装着の習慣化やメンテナンスに不安がある場合には、より確実に歯の位置をコントロールできるワイヤー矯正主体の治療を選択する方が安心です。自分のライフスタイルや性格に合わせて装置を選ぶことが、外科矯正を成功させる大切なポイントです。

外科矯正とマウスピースの併用治療の流れ

外科矯正とマウスピースの併用治療の流れ

外科矯正とマウスピースを併用する場合の治療の流れは以下のとおりです。

  • 初診・精密検査
  • 術前矯正
  • 顎の手術
  • 術後矯正と保定

それぞれについて詳しく解説します。

初診・精密検査

外科矯正とマウスピース併用治療を行う場合、まずは顔全体のバランスや顎の位置、咬み合わせの状態を詳細に確認します。CT撮影やセファログラム(頭部X線)、歯列模型などを用いて、骨格構造と歯並びの関係を精密に分析するのが最初のステップです。

そのうえで、マウスピース矯正がどの範囲まで適用できるかを判断し、術前矯正・術後矯正のどの段階で活用できるかをシミュレーションします。歯の移動量や顎の骨格的ずれの程度を評価し、治療全体の流れを設計します。

顎変形症の程度が大きい場合や、骨格移動が必要なケースでは、ワイヤー矯正との併用を提案されることもあります。

術前矯正

外科矯正では、手術に先立って上下の歯を正しい位置関係に整える「術前矯正」を行います。手術で顎の骨を正しい位置に動かした際に、咬み合わせがぴたりと合うようにするための大切な準備です。

マウスピース矯正を使用する場合は、主に軽度の歯列調整や歯軸の傾き修正を目的として行われます。

一方で、大きな歯の移動や強い固定力が必要なケースでは、マウスピースだけでは対応が難しいことがあります。その場合は、ワイヤー矯正やハイブリッド法(ワイヤーとマウスピースの併用)を選択することで、精密かつ安定した歯列調整が可能になります。

顎の手術

外科矯正の中心となる工程が、顎の骨を適切な位置に移動させる外科手術です。手術では、上顎・下顎、またはその両方の骨をミリ単位で調整し、咬み合わせと顔全体のバランスを整えます。

この段階では、マウスピース矯正は使用せず、顎の骨格を安定させることを最優先とします。手術後の骨の固定や噛み合わせの維持には、ワイヤーや固定装置(スプリントなど)が用いられることが一般的です。

骨の位置が安定するまでの期間は、食事や会話などにも制限が設けられます。

術後矯正と保定

外科矯正手術の後は、骨格が正しい位置に整った状態に合わせて歯の微調整を行う「術後矯正」を実施します。この工程では、手術によって得られた咬み合わせをさらに精密に仕上げ、噛みやすさと見た目の自然さを両立させます。

この段階でマウスピース矯正を使用することで、装置が目立たず審美性を保ちながら歯列の微調整が可能です。透明で取り外しができるため、術後の腫れや違和感が残る時期でも快適に装着できます。

治療が完了したあとは、保定用のマウスピース(リテーナー)を使用し、歯並びと咬み合わせの安定を維持します。定期的な通院で骨の癒合と歯列の安定を確認し、後戻りを防止することが大切です。

サージェリー・ファースト(外科手術先行型)について

サージェリー・ファースト(外科手術先行型)について

サージェリー・ファースト(Surgery First)とは、従来の「術前矯正 → 手術 → 術後矯正」という流れとは異なり、外科手術を先に行う治療法です。まず手術によって顎の骨格のずれを改善し、その後に歯の細かな位置調整を行います。

この方法の最大の特徴は、見た目の変化を早期に実感できることです。術前矯正を省くため、顎の位置を整えた直後から顔貌のバランスが改善され、心理的な負担も軽減されます。

一方で、術前矯正を行わない分、手術前の咬み合わせを仮想的に設計(セットアップ)する精密な計画が不可欠です。3Dシミュレーションを用いて、術後の歯列や顎の位置を高精度に予測する必要があります。

また、すべての症例に適応できるわけではなく、顎変形の程度・歯列の乱れ・噛み合わせの複雑さによっては、従来型が適している場合もあります。

当院では、従来の外科矯正に加えて「サージェリーアーリー」(手術時期を早めた治療法)にも対応しています。RAP・SAP効果を活かした治療システムにより、従来の外科矯正に比べて治療期間を大幅に短縮することが可能です。治療期間を短くしたい方は、ぜひご相談ください。

外科矯正とマウスピースを併用するメリット

外科矯正とマウスピースを併用するメリット

外科矯正にマウスピース矯正を組み合わせることで、見た目を気にせず治療を進められるという大きな審美的メリットがあります。透明な装置を使用するため、装着中でもほとんど目立たず、仕事や人前に立つ機会の多い人にも適しています。

また、取り外しが可能なため、食事や歯みがきの際に装置を外して口腔内を清潔に保ちやすく、虫歯や歯周病などのトラブルを防ぐことが可能です。

術前・術後の歯の微調整も快適に行えるうえ、話す際の違和感が少ないのも特徴です。さらに、見た目や生活へのストレスを抑えられることで、長期間にわたる外科矯正治療へのモチベーションを維持しやすいという心理的な利点もあります。

外科矯正とマウスピースを併用するデメリット

外科矯正とマウスピースを併用するデメリット

マウスピース矯正はワイヤー矯正に比べて歯を動かす力が弱いため、複雑な歯の移動や大きな咬み合わせの修正には不向きなケースがあります。

また、1日20時間以上の装着が必要であり、自己管理が不十分だと歯が予定どおりに動かず、治療期間が延びるリスクもあります。とくに外科矯正は手術との連携が前提となるため、スケジュール通りに歯を動かすことが非常に重要です。

さらに、骨格的なずれが大きい症例(受け口・開咬・顔の非対称など)では、マウスピース併用が難しい、または治療効果が限定的になることもあります。

治療前には必ず矯正歯科医と口腔外科医による精密な診断を受け、適応可否を見極めることが大切です。

まとめ

外科矯正とマウスピース矯正は併用可能なケースがありますが、すべての症例に適しているわけではありません。

骨格のずれが大きい場合や複雑な歯の移動が必要な場合は、ワイヤー矯正のほうが精密な制御ができるため優先されます。

一方で、術前・術後の微調整や見た目の自然さを重視する場面では、マウスピース矯正が有効に活用できます。

快適さ・審美性・治療精度のバランスは人によって異なるため、併用の可否は精密検査と専門医の判断が欠かせません。

自分に合った治療方法を選ぶためにも、矯正歯科と口腔外科の連携による診断を受け、治療計画を丁寧に検討することが大切です。

この記事の監修者

山之内矯正歯科クリニック 院長山之内 哲治
山之内 哲治

矯正歯科臨床38年以上の経験を持ち、外科矯正と呼吸機能改善を専門としています。口腔外科・形成外科・呼吸器内科など多領域の先生方と連携し、咬み合わせの問題を骨格から見直す必要があるのか、歯列矯正で対応できるのかを慎重に見極めた治療を行っています。

経歴

  • 1984年:岡山大学歯学部附属病院 研究生・医員
  • 1986年:光輝病院勤務、岡山大学歯学部附属病院 助手
  • 1987年:米国ロヨラ大学 Dr.Aobaのもとへ留学
  • 1998年:岡山大学歯学部 退職
  • 2000年:山之内矯正歯科クリニック 開院
  • 2004年:日本矯正歯科学会 優秀発表賞受賞
  • 2011年:日本臨床矯正歯科医会 アンコール賞受賞

顎変形症の治療とオトガイ形成はどう違う?それぞれの目的と併用されるケースを解説

顎変形症の治療とオトガイ形成はどう違う?それぞれの目的と併用されるケースを解説

「顎変形症の治療とオトガイ形成って、どう違うの?」

「自分の場合はどちらが適しているのか知りたい」

このようにお悩みの方も多いのではないでしょうか。

顎変形症(がくへんけいしょう)の治療は、咬み合わせや骨格のずれといった機能面を整えるのが目的で、歯列矯正と外科手術を組み合わせて根本から改善する方法です。

一方のオトガイ形成は、顎先の形を整えて横顔やフェイスラインの見た目を調和させる施術で、目的もアプローチも大きく異なります。

両者の違いと役割を理解しておくことは非常に重要です。

この記事では、顎変形症治療とオトガイ形成の目的の違い、適応の考え方、併用されるケースについてわかりやすく解説します。

顎変形症とは

顎変形症とは

顎変形症とは、上顎や下顎の骨格にずれや変形が生じ、咬み合わせや顔全体のバランスに影響を及ぼす症状のことです。骨格の位置や大きさに不調和があることで、受け口(下顎前突)や出っ歯(上顎前突)、顔の左右非対称などの特徴が現れることがあります。

この症状は見た目だけの問題ではなく、咀嚼のしづらさや発音の不明瞭さ、さらには呼吸機能への影響など、機能面にも支障をきたす場合があります。顎の骨格が原因であるため、歯列矯正のみでは根本的な改善が難しいのが特徴です。

治療には、歯列矯正と外科的手術(外科矯正)を組み合わせた方法が用いられます。顎の骨格を正しい位置に整え、咬み合わせと顔貌のバランスを同時に改善することで、機能面と審美面の両方からアプローチすることが可能です。

オトガイ形成とは

オトガイ形成とは

オトガイ形成とは、顎先(オトガイ)の形や位置を整えることで、顔全体のバランスを改善する形成外科的手術です。顎の長さや前後の位置、高さを微調整し、横顔のEラインやフェイスラインを整えることを目的としています。

手術方法には、顎先の骨を切って移動させる「骨切り法」と、シリコンなどの人工物を挿入する「プロテーゼ法」があります。どちらの方法も、顔の輪郭を自然に整えることができるのが特徴です。

主に審美的な改善を目的とする手術ですが、顎変形症の治療と併用して行われることもあります。その場合、咬み合わせを整える外科矯正に加えて、顎先の位置を調整することで、より調和の取れた自然な顔貌を目指します。

顎変形症の治療とオトガイ形成の違い

顎変形症の治療とオトガイ形成の違い

顎変形症の治療とオトガイ形成は、一見似ているようで目的やアプローチが大きく異なります。治療内容を理解するうえで、両者の違いを整理しておくことが重要です。

両者の主な違いは以下のとおりです。

  • 治療目的の違い
  • 適用される手術部位・方法の違い
  • 保険適用の有無

それぞれについて詳しく解説します。

治療目的の違い

顎変形症の治療は、顎の骨格的なずれや変形を改善し、噛む・話す・呼吸するといった機能を回復させることが主な目的です。機能面の不調を根本から治す「医療的治療」にあたるため、健康保険が適用される場合もあります。

一方、オトガイ形成は顎先の形や位置を整えることで、横顔やフェイスラインの見た目を美しく整えることが目的です。顎の機能には大きな影響を与えず、主に顔貌バランスや輪郭の審美的改善を図る「形成・美容的手術」に分類されます。

つまり、顎変形症治療は機能改善を重視し、オトガイ形成は審美的バランスを重視するという目的の違いがあります。どちらも顔の印象に関わる治療ですが、アプローチの方向性が大きく異なるのです。

適用される手術部位・方法の違い

顎変形症の治療では、上顎や下顎の骨を切り、前後・上下・左右に移動させて咬み合わせと骨格全体の位置を整えます。代表的な手術には、下顎枝矢状分割術(SSRO)や上顎骨切り術(Le Fort Ⅰ型)などがあり、顎の構造そのものを修正する大がかりな外科手術です。

一方、オトガイ形成は顎先(オトガイ部)のみを対象とし、骨を切って移動させる「骨切り法」や、シリコンなどの人工物を挿入する「プロテーゼ法」で形を整えます。対象となる範囲が小さく、主に輪郭や横顔のバランスを調整する目的で行われます。

また、顎変形症の手術は全身麻酔下で入院を伴うのに対し、オトガイ形成は局所麻酔や短時間の施術で日帰りが可能なケースも多いです。

保険適用の有無

顎変形症の治療は、咬み合わせや顎の機能を改善することを目的とした医療行為であり、一定の条件を満たせば健康保険が適用となります。指定医療機関や大学病院などで、矯正歯科と口腔外科が連携して治療を行うのが一般的です。

一方、オトガイ形成は見た目の改善を目的とする審美的手術とみなされるため、原則として保険適用外の自費診療となります。費用は使用する方法(骨切り法・プロテーゼ法)や医療機関によって異なりますが、数十万円程度が目安です。

ただし、顎変形症の外科手術に付随して顎先の位置を整える場合には、機能改善の一環として判断され、保険適用内で行われるケースもあります。治療目的や手術計画によって扱いが変わるため、事前に医師へ確認することが大切です。

顎変形症の手術でオトガイ形成を併用するケース

顎変形症の手術でオトガイ形成を併用するケース

顎変形症の手術では、上下の顎の骨格を整えたあとに、顎先(オトガイ)の位置や形がわずかに不自然に見えることがあります。これは、骨格全体のバランスが変化した結果、顎先だけが相対的に突出または後退して見えるためです。

そのような場合、顔全体の骨格バランスやフェイスラインを補正する目的で、オトガイ形成を併用することがあります。顎先を数ミリ単位で前後・上下に調整することで、咬み合わせの機能性と顔貌の調和を同時に高めることが可能です。

この処置は美容目的ではなく、骨格全体のバランスを整える医療的補正として行われるケースが多いです。結果として、横顔のラインや下顔面の輪郭が自然に整い、より完成度の高い仕上がりが得られます。

オトガイ形成のみを検討する場合の注意点

オトガイ形成のみを検討する場合の注意点

オトガイ形成は顔貌バランスを整えるうえで有効な方法ですが、適応を誤ると満足のいく仕上がりにならない場合があります。とくに単独で行う際は、骨格や機能面との整合性を慎重に見極めることが大切です。

オトガイ形成のみを検討する際の注意点は以下のとおりです。

  • 骨格性の問題を伴う場合は単独では改善が難しい
  • 美容目的の施術では後戻りや左右差に注意が必要

それぞれについて詳しく解説します。

骨格性の問題を伴う場合は単独では改善が難しい

出っ歯や受け口など、顎変形症に該当する骨格的なずれがある場合は、オトガイ形成だけで根本的な改善を図ることは難しいです。

顎先の形を変えることで一時的に見た目を整えることはできますが、骨格全体のバランスが崩れたままでは、咬み合わせや機能面に問題が残るおそれがあります

とくに、咬合のずれや顎の前後差が大きい場合、オトガイ形成を単独で行うと、見た目の不調和がかえって強調されるケースもあります。そのため、まずは顎変形症の有無を確認し、必要に応じて外科矯正などの根本的な治療を優先することが重要です。

美容外科だけでなく、歯科口腔外科や矯正歯科での診断を併用することで、治療方針のミスマッチを防ぎ、見た目と機能の両面で最適な結果を得やすくなります。

美容目的の施術では後戻りや左右差に注意が必要

オトガイ形成を美容目的で行う場合、術後に骨やプロテーゼがわずかに移動し、形状が後戻りすることがあります。とくに骨切り法では、骨の癒合過程や筋肉の張力によって、位置がごくわずかに変化することがあるため注意が必要です。

また、骨の切除量や移動量が左右で異なると、顔の対称性にわずかな差が生じるケースもあります。さらに、オトガイ部には知覚神経(オトガイ神経)が通っているため、まれに下唇や顎周囲にしびれなどの感覚変化が現れることもあります。

これらのリスクを最小限に抑えるためには、顎の構造や神経走行を正確に理解している口腔外科医・形成外科医に相談することが重要です。術前に3Dシミュレーションや画像分析を十分に行い、理想の形と安全性の両立を図ることが大切です。

よくある質問

よくある質問

オトガイ形成と顎変形症の手術は同時に行えますか?

同時に行うことがあります。上下の顎の骨格を整えたうえで、顎先(オトガイ)の位置や形を微調整することで、顔全体のバランスをより自然で調和の取れた仕上がりにすることが可能です。

咬み合わせや呼吸といった機能面の改善に加えて、横顔のライン(Eライン)やフェイスラインの審美的な完成度も高められます。手術全体の設計段階で計画的に行うことで、追加の負担を最小限に抑えられる点もメリットです。

また、顎変形症の治療の一環として機能改善を目的に実施される場合には、健康保険の適用範囲内で対応されるケースもあります。

顎変形症の治療はどの診療科で相談すればよいですか?

矯正歯科または口腔外科での相談が基本です。歯並びや咬み合わせだけでなく、骨格全体のバランスを詳しく確認し、必要に応じて形成外科や耳鼻咽喉科と連携して治療を進めるケースもあります。

矯正歯科では歯列や咬合の分析が、口腔外科では顎の骨格や手術適応の判断がそれぞれの専門です。両分野が連携して治療計画を立てることで、見た目と機能の両方を総合的に改善できます。

大学病院や顎変形症の指定医療機関では、保険適用のもとで一貫した治療を受けられる場合もあります。

オトガイ形成で顔が大きく見えることはありますか?

顎先を前方に出しすぎたり、下方向に長く伸ばしすぎると、顔全体が縦に長く見えることがあります。特に下顎の長さや角度のバランスを誤ると、下顔面が強調され、意図せず「顔が大きく見える」印象になることもあります。

こうした仕上がりを防ぐためには、手術前のシミュレーションが非常に重要です。CT画像や3Dモデルを用いて横顔やフェイスラインのバランスを確認し、顔全体との調和を保ちながら自然な形に調整します。

まとめ

まとめ

顎変形症の治療とオトガイ形成は、どちらも顔の印象に関わる治療ですが、目的は大きく異なります。顎変形症は「噛む・話す・呼吸する」といった機能面の改善が中心で、骨格のずれを根本から整える治療です。

一方、オトガイ形成は顎先の形を整えて輪郭バランスや横顔の調和を高めるための形成手術で、審美目的のケースがほとんどです。

骨格の不調和がある場合は、オトガイ形成だけでは改善が難しいこともあり、外科矯正と併用して行われるケースもあります。治療の選び方を誤らないためには、矯正歯科・口腔外科で骨格や咬み合わせの状態を正確に診断してもらうことが重要です。

山之内矯正歯科クリニックでは、顎変形症の外科矯正からオトガイ形成まで、幅広い治療に対応しています。口腔外科・形成外科・呼吸器内科など多領域の専門医と連携し、機能と審美の両面から最適な治療プランをご提案します。顎の形や咬み合わせでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事の監修者

山之内矯正歯科クリニック 院長山之内 哲治
山之内 哲治

矯正歯科臨床38年以上の経験を持ち、外科矯正と呼吸機能改善を専門としています。口腔外科・形成外科・呼吸器内科など多領域の先生方と連携し、咬み合わせの問題を骨格から見直す必要があるのか、歯列矯正で対応できるのかを慎重に見極めた治療を行っています。

経歴

  • 1984年:岡山大学歯学部附属病院 研究生・医員
  • 1986年:光輝病院勤務、岡山大学歯学部附属病院 助手
  • 1987年:米国ロヨラ大学 Dr.Aobaのもとへ留学
  • 1998年:岡山大学歯学部 退職
  • 2000年:山之内矯正歯科クリニック 開院
  • 2004年:日本矯正歯科学会 優秀発表賞受賞
  • 2011年:日本臨床矯正歯科医会 アンコール賞受賞

外科矯正で顔はどう変わる?手術後の見た目・横顔・印象の変化を徹底解説

外科矯正で顔はどう変わる?手術後の見た目・横顔・印象の変化を徹底解説

「外科矯正をすると本当に顔つきは変わるの?」

「横顔やフェイスラインがどう変化するのか具体的に知りたい」

このように疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。

外科矯正は、歯列矯正だけでは改善が難しい顎の骨格のズレを整える治療で、その過程で顔立ちや横顔のバランスが自然に変化することがあります。

ただし、美容目的の整形とは異なり、あくまで咬み合わせなどの機能を正常にする中で起こる変化が中心です。

この記事では、外科矯正で顔が変わる仕組みや部位別の変化について、わかりやすく解説します。

外科矯正とは

外科矯正とは

外科矯正とは、顎の骨格にずれや変形があることで歯並びや咬み合わせに問題が生じている場合に行う治療法です。

通常の矯正治療では改善が難しい骨格的な問題を、外科手術によって顎の位置を整えることで根本から解決します

この治療は、見た目の改善だけを目的とするものではなく、咬み合わせや発音、呼吸機能などの機能面を回復させることも大きな特徴です。顎の位置や角度を調整することで、顔全体のバランスや輪郭を自然に整える効果も期待できます。

外科矯正は、矯正歯科と口腔外科が連携して行う高度な治療であり、機能性と審美性の両面からアプローチできる総合的な治療法です。

山之内矯正歯科クリニックでは、一般的な矯正はもちろん外科矯正治療にも対応しています。診断から術後管理まで一貫してサポートし、患者さま一人ひとりに合わせた治療計画を立てています。

外科矯正で顔が変わる仕組み

外科矯正で顔が変わる仕組み

外科矯正では、顎の骨を適切な位置に移動させることで骨格全体のバランスが整い、顔全体の印象が変化することがあります。これは美容目的の整形ではなく、咬み合わせや呼吸機能を正常化する過程で生じる自然な顔貌の変化です。

下顎を後退・前進させたり、上顎を上下・前後に移動させることで、口元の突出感が軽減し、フェイスラインがすっきりと整います。顎の位置が正しい位置に戻ることで、横顔のEライン(理想的な横顔ライン)も自然に改善されるケースが多いです。

顔つきの変化の程度は症例によって異なりますが、手術前に3Dシミュレーションを行うことで、治療後の顔貌や輪郭のイメージを事前に確認できます。これにより、仕上がりへの不安を軽減し、納得したうえで治療に臨むことが可能です。

顔の各部位で起こる変化

顔の各部位で起こる変化

外科矯正では、顎の骨格を整えることで口元や横顔、フェイスラインなど、顔のさまざまな部位に自然で調和のとれた変化が現れます。

個人差はありますが、主な変化は以下のとおりです。

  • 口元・唇・Eライン
  • フェイスライン・エラ
  • 鼻・中顔面
  • 笑顔・表情

それぞれについて詳しく解説します。

口元・唇・Eライン

外科矯正によって顎の位置が正しく整うと、上下の唇の位置関係が自然になり、横顔のEライン(鼻先と顎先を結ぶ理想的なライン)が改善されます。とくに出っ歯や受け口の症例では、口元の突出感が軽減し、口を自然に閉じやすくなる効果があります。

また、顎や歯の位置が整うことで唇の張りや厚みのバランスも改善され、口元全体がやわらかく自然な印象になります。緊張していた口周りの筋肉がリラックスし、穏やかで落ち着いた表情をつくりやすくなる点も大きなメリットです。

Eラインが整うことで、横顔のバランスが美しく見えるだけでなく、咬み合わせや発音のしやすさといった機能面の改善にもつながります。

フェイスライン・エラ(下顎角)

外科矯正では、下顎の位置や角度を修正することでフェイスラインの輪郭がすっきりと整い、横顔や正面から見た印象が大きく変化します。顎の骨格そのものを調整するため、単なる見た目の変化ではなく、骨格バランスに基づいた自然なラインを実現できます

とくに下顎前突や顔の左右非対称の症例では、顎の張りやエラの角度が整い、下顔面がコンパクトでバランスの取れた形に近づきます。輪郭の左右差も改善されることで、顔全体の対称性が高まります。

また、顎関節のバランスが改善されることで、咀嚼筋(噛む筋肉)の緊張が緩み、硬さのないやわらかい印象の顔立ちになることがあります。フェイスラインの改善は見た目だけでなく、筋肉や関節の機能回復にもつながる重要な効果です。

鼻・中顔面

上顎を移動させる手術(Le FortⅠ型骨切り術など)を行うと、鼻や中顔面の見え方にも間接的な変化が生じます。上顎の位置を前後・上下に移動させることで、鼻先の角度や鼻の下の長さ、さらにはほうれい線の出方にもわずかな変化が見られることがあります。

これらの変化は大きなものではなく、あくまで自然な範囲で顔全体の立体感やバランスが整う傾向にあります。とくに上顎が後退していた方では、手術後に中顔面がふっくらと見え、若々しい印象を与えることもあります。

鼻や中顔面の変化は目立ちにくいものの、顔全体の調和を取るうえで非常に重要なポイントです。治療前にシミュレーションを行い、鼻や口元とのバランスを確認しておくことで、より満足度の高い仕上がりが期待できます。

笑顔・表情

外科矯正で咬み合わせや口元の位置が整うと、笑ったときの歯の見え方(スマイルライン)が自然に整い、口元のバランスが改善されます。歯列や唇の位置が正しくなることで、笑顔がより調和の取れた印象になります。

また、口角が上がりやすくなり、唇の動きも滑らかになるため、表情全体が柔らかく明るい印象へと変化します。以前よりも自然に笑えるようになり、表情に自信を持てるようになる方も多いです。

さらに、口輪筋などの表情筋のバランスが改善されることで、笑顔をつくる際の引きつり感や違和感が軽減されます。機能面と審美面の両方が整うことで、自然で豊かな表情を引き出せるようになります。

外科矯正で顔の変化を実感しやすい症例

外科矯正で顔の変化を実感しやすい症例

外科矯正は、骨格のズレを根本から整えるため、見た目の変化を実感しやすい症例があります。

顔の変化を実感しやすい主な症例は以下のとおりです。

  • 上顎前突(出っ歯)
  • 下顎前突(受け口)
  • 顔の左右非対称
  • 開咬(前歯が閉じない)
  • 複数の要因が重なる場合(複合症例)

それぞれについて詳しく解説します。

上顎前突(出っ歯)

上顎前突の外科矯正では、上顎の骨を後方へ移動させたり、下顎を前方に出すことで、前歯や口元の突出感を改善します。歯の位置だけでなく骨格全体を調整するため、顔の印象が大きく変わることがあります。

この手術によって横顔のEライン(鼻先と顎先を結ぶライン)が整い、口元が引き締まって見えるようになります。唇が自然に閉じやすくなり、表情も穏やかでバランスの取れた印象になります。

さらに、歯がしっかりと噛み合うようになることで、咀嚼機能の向上に加え、口呼吸の改善や発音のしやすさにもつながります。見た目と機能の両面で効果を実感しやすい症例です。

下顎前突(受け口)

下顎前突の外科矯正では、前方に出ている下顎の骨を後方へ移動させ、顎の位置と咬み合わせを正しく整えます。骨格のずれを根本から修正するため、見た目だけでなく機能面の改善にも効果的です。

下顎を適切な位置に戻すことで、口元の突出感が軽減し、横顔のラインが自然でバランスの取れた印象になります。顔全体の下半分が引き締まり、フェイスラインがより整った形になります。

また、咬み合わせが改善されることで、食事のしやすさや発音の明瞭さが向上します。術後は顎の長さや位置が整うため、輪郭がすっきりし、全体的に調和の取れた印象を実感しやすい症例です。

顔の左右非対称

顔の左右非対称は、下顎の骨が片側にずれている、または成長のバランスに差があることによって生じます。見た目のゆがみだけでなく、咬み合わせの偏りや顎関節への負担を引き起こすことも少なくありません。

外科矯正では、ずれている骨を正中(顔の中心)に合わせるように移動させ、左右のバランスを整えます。これにより、あご先の傾きや輪郭の歪みが改善され、正面から見たときの対称性を高めることが可能です

さらに、片側に偏っていた咬み合わせが正常化することで、顎関節や咀嚼筋への負担が軽減されます。機能面と審美面の両方で改善を実感でき、顔全体の印象がより自然で均整の取れたものになります。

開咬(前歯が閉じない)

開咬は、奥歯を咬み合わせても前歯の間にすき間ができ、唇を閉じにくくなる状態です。見た目の問題だけでなく、発音のしづらさや食べ物を前歯で噛み切りにくいといった機能的な支障を伴うこともあります。

外科矯正では、上顎または下顎の位置を上下方向に調整し、前歯がしっかりと噛み合うように骨格を修正します。これにより、咬み合わせが安定し、前歯での咀嚼機能が改善されるのです。

手術後は、口元が自然に閉じやすくなり、発音の明瞭さや食事のしやすさも向上します。見た目の改善だけでなく、呼吸や筋肉バランスの正常化にもつながる点が特徴です。

複数の要因が重なる場合(複合症例)

外科矯正では、受け口と左右非対称、出っ歯と開咬など、複数の骨格的不調和が同時に見られるケースも少なくありません。こうした複合症例では、上下の顎や顎先(オトガイ)の位置を総合的に調整し、全体のバランスを取ることが重要です。

治療計画はより精密で複雑になり、CT画像やセファロ分析、3Dシミュレーション、模型分析などを活用して、手術後の骨格位置を慎重に設計します。各部位の移動量や角度を細かく調整することで、自然で機能的な仕上がりを目指します。

複数の要因を同時に改善することで、咬み合わせだけでなく、呼吸機能や顔貌全体の調和まで総合的に整えることが可能です。審美性と機能性の両立を実現するために、高度な診断と医師の連携が欠かせない治療です。

ダウンタイムによる一時的な顔の変化

ダウンタイムによる一時的な顔の変化

外科矯正の手術後は、腫れやむくみなどによって一時的に顔の形が変化することがあります。これは手術による炎症反応の一部であり、多くの場合は時間の経過とともに自然に回復します。

個人差はありますが、とくに手術直後の1〜2週間は、頬や口元を中心に腫れが出やすく、顔がやや丸く見えることも多いです。腫れのピークを過ぎると徐々に引いていき、1ヶ月ほどで日常生活に支障のない程度まで回復するのが一般的です。

最終的な顔のラインや輪郭のバランスが落ち着くまでには、3〜6ヶ月ほどかかることもあります。回復をスムーズに進めるためには、術後の安静・冷却・睡眠姿勢など、医師の指示に沿ったケアを継続することが大切です。

どこまで変わる?歯列矯正と外科矯正の違い

どこまで変わる?歯列矯正と外科矯正の違い

歯列矯正は、歯そのものの位置を少しずつ動かして歯並びを整える治療であり、顎の骨格の形までは変えることができません。見た目の改善は歯の配列が中心で、主に軽度の歯並びや咬み合わせの不正に対応します。

一方、外科矯正は顎の骨の位置や大きさを外科手術によって調整し、顔の輪郭や咬み合わせを根本から改善する治療法です。顎の骨格そのものを動かすため、横顔のラインや顔全体のバランスが大きく変わることがあります。

そのため、外見上の変化や横顔の整い方には大きな違いがあります。軽度の歯列不正は矯正治療のみで改善できますが、骨格的なずれが原因の場合は外科矯正が適しています

まとめ

まとめ

外科矯正は、顎の骨格を正しい位置に整えることで咬み合わせや呼吸などの機能を改善する治療ですが、その過程で顔立ちや横顔のバランスが自然に変わることがあります。

口元の突出感が軽減したり、フェイスラインがシャープになったりと、骨格レベルで整うため見た目の変化を実感しやすい点が特徴です。

上顎や下顎の位置を動かすため、Eライン・唇の位置・左右対称性などにも影響し、より調和の取れた印象に近づくケースが多く見られます。

顔つきの変化は症例によって大きく異なるため、治療前にシミュレーションで仕上がりを確認し、専門医と相談しながら進めることが大切です。

この記事の監修者

山之内矯正歯科クリニック 院長山之内 哲治
山之内 哲治

矯正歯科臨床38年以上の経験を持ち、外科矯正と呼吸機能改善を専門としています。口腔外科・形成外科・呼吸器内科など多領域の先生方と連携し、咬み合わせの問題を骨格から見直す必要があるのか、歯列矯正で対応できるのかを慎重に見極めた治療を行っています。

経歴

  • 1984年:岡山大学歯学部附属病院 研究生・医員
  • 1986年:光輝病院勤務、岡山大学歯学部附属病院 助手
  • 1987年:米国ロヨラ大学 Dr.Aobaのもとへ留学
  • 1998年:岡山大学歯学部 退職
  • 2000年:山之内矯正歯科クリニック 開院
  • 2004年:日本矯正歯科学会 優秀発表賞受賞
  • 2011年:日本臨床矯正歯科医会 アンコール賞受賞

外科矯正とは?一般的な矯正との違い・手術の種類・費用まで徹底解説

外科矯正とは?一般的な矯正との違い・手術の種類・費用まで徹底解説

「外科矯正ってどんな治療?」

「普通の矯正と何が違うの?」

このような疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。

外科矯正は、歯だけでなく「顎の骨格そのもの」にズレや変形がある場合に、矯正治療と外科手術を組み合わせて整える治療法です。見た目の改善だけでなく、咬み合わせ・発音・呼吸など、生活のしやすさにも大きく関わる重要な治療といえます。

この記事では、外科矯正の基本的な仕組みや通常の矯正との違い、代表的な手術の種類をわかりやすく解説します。

外科矯正とは

外科矯正とは

外科矯正とは、顎の骨格にずれや変形があることで歯並びや咬み合わせに問題が生じている場合に行う治療です。一般的な矯正歯科治療(ワイヤー矯正やマウスピース矯正)に加え、外科的な手術で顎の骨を正しい位置に整えるのが特徴です。

この治療は見た目の改善だけでなく、咬み合わせや発音、呼吸機能などを総合的に改善することを目的としています。顎の位置や骨格のバランスを整えることで、顔貌の調和と機能の回復を同時に実現できます。

手術前後の歯列矯正や咬合調整が必要となるため、口腔外科と矯正歯科が連携して治療を行います。骨格レベルから問題を見直したい方に適した治療法です。

当院でも、必要に応じて口腔外科と連携し、外科矯正の適応を咬み合わせや顎の成長バランス、日常生活への影響などを踏まえて総合的に判断し、患者さまと相談しながら進めています。

通常の矯正治療との違い

通常の矯正治療との違い

通常の矯正治療は、歯に矯正装置をつけて少しずつ位置を動かし、歯並びや咬み合わせを整える方法です。主に歯列の不正を対象としており、骨格的なずれがない場合に効果的です。

一方、外科矯正は顎の骨格そのものにずれや変形がある場合に行う治療で、手術によって骨の位置を修正する点が大きな違いです。顎の大きさや位置の問題は、歯の移動だけでは改善が難しいため、外科手術と矯正治療を組み合わせて根本から整えます。

その分、治療期間や準備工程は通常の矯正よりも長くなりますが、咬み合わせの改善だけでなく、顔貌のバランスを整える効果も大きいのが特徴です。外科矯正は見た目と機能の両方を高いレベルで改善したい方に適した治療法といえます。

外科矯正が必要とされる主な症例

外科矯正が必要とされる主な症例

外科矯正が必要とされるのは、歯並びだけでなく顎の骨格そのものにズレや位置異常があるケースです。

代表的な症例は以下のとおりです。

  • 受け口(下顎前突)
  • 出っ歯(上顎前突)
  • 顔の左右非対称
  • 開咬(奥歯だけが当たる・前歯が閉じない状態)

それぞれについて詳しく解説します。

受け口(下顎前突)

下顎前突は、下顎が上顎よりも前方に突出している、一般的に「受け口」と呼ばれる状態です。歯の傾きによる軽度のものは矯正治療のみで改善できる場合もありますが、顎の骨そのものが前方に位置している場合は、外科矯正の対象となります

受け口の状態は咬み合わせが反対になり、食べ物をうまく噛めない・発音がしにくいといった機能的な問題が生じやすくなります。また、下顎が突出しているために、口元が出ている印象を与えることも少なくありません。

外科矯正によって顎の位置を適切に整えることで、見た目のバランスが改善されるだけでなく、咀嚼や発音といった機能面の回復にもつながります。

出っ歯(上顎前突)

上顎前突は、上顎が前方に出ている、または下顎が後方に引っ込んでいることで、前歯が大きく前に傾いて見える状態を指します。

歯の傾きだけが原因であれば矯正治療のみで改善できる場合もありますが、顎の骨格そのものに問題がある場合は、外科矯正による骨格の位置調整が必要となります。

上顎前突では、口が閉じにくい、前歯の露出が目立つ、発音がしづらいなどの機能的・審美的な問題を伴うことが多いです。また、唇が常に開き気味になることで口呼吸の習慣がつきやすく、口腔内の乾燥や虫歯のリスクが高まることもあります。

外科矯正によって顎の位置を整えることで、顔全体のバランスが改善され、横顔のライン(Eライン)も自然で調和のとれた形に近づきます。

顔の左右非対称

顔の左右非対称は、顎の骨が左右のどちらかにずれている、または成長のバランスに差があることで起こります。下顎の歪みが原因となるケースが多く、咬み合わせが左右どちらかに偏ることで、噛みにくさや顎関節への負担が生じることがあります。

見た目のゆがみだけでなく、顎関節症や咀嚼筋(噛む筋肉)のこり、片頭痛などの症状を引き起こすことも少なくありません。長期間放置すると、片側の筋肉が過剰に発達し、さらに非対称が強調されることもあります。

骨格のずれが大きい場合は、外科矯正によって顎の位置を正中(顔の中心)に合わせることで、顔貌のバランスと咬み合わせの両方を改善できます。

開咬(奥歯だけが当たる・前歯が閉じない状態)

開咬は、奥歯を咬み合わせても上下の前歯が閉じず、前歯の間にすき間ができる状態を指します。指しゃぶりや舌を前に押し出す癖(舌癖)などの習慣が原因となることもありますが、顎の骨格のずれが関係している場合は、外科矯正による治療が必要です。

開咬は前歯で食べ物を噛み切ることが難しく、発音が不明瞭になったり、口呼吸が続いたりすることが多く見られます。さらに、上下の顎の位置関係が乱れているため、顎関節や咬合筋に負担がかかりやすくなります。

外科矯正の種類

外科矯正の種類

外科矯正には、症例に応じて複数の手術方法があります。顎の位置や変形の度合いに合わせて最適な術式が選ばれます。

代表的な手術の種類は以下のとおりです。

  • 上下顎移動術(両顎手術)
  • 下顎枝矢状分割術(SSRO)
  • 上顎骨切り術(Le Fort Ⅰ型骨切り術)
  • オトガイ形成術(顎先の位置を整える手術)

それぞれについて詳しく解説します。

上下顎移動術(両顎手術)

上下顎移動術は、上顎と下顎の両方を外科的に移動させて位置関係を整える手術です。受け口や顔の左右非対称、開咬など、上下の顎のずれが大きい症例に適用されます。

この手術では、上顎と下顎の骨をバランスよく移動させることで、咬み合わせの改善はもちろん、横顔や輪郭の調和も図ることができます。顎全体の位置関係を整えるため、見た目と機能の両面で効果が高いのが特徴です。

手術は全身麻酔で行われ、術後は数日間の入院が必要となります。

下顎枝矢状分割術(SSRO)

下顎枝矢状分割術(かがくししじょうぶんかつじゅつ)(SSRO)は、下顎の骨を前方または後方に移動させて、咬み合わせや顎の位置を整える手術です。下顎の骨を左右で分割し、ずれのある骨を適切な位置に再固定することで、受け口や出っ歯、顎の偏位などを改善します。

この手術の特徴は、骨の接触面が広く取れるため安定性が高い点です。骨同士がしっかりと噛み合うことで、術後の固定が安定しやすく、顎関節への負担を最小限に抑えながら自然な位置に調整できます。

SSROは外科矯正の中でも広く行われている基本的な手術法で、見た目と機能の両面で高い改善効果が期待できます。

上顎骨切り術(Le Fort Ⅰ型骨切り術)

上顎骨切り術(Le Fort Ⅰ型骨切り術)は、上顎の骨を水平方向に切り離し、前後・上下・左右へ移動させて位置を整える手術です。

上顎が出ている、または後退している症例、開咬や顔の左右非対称など、上顎の位置異常が原因となる咬み合わせの改善に適応されます。

この手術では、上顎の高さや角度を精密に調整できるため、咬み合わせの改善に加えて、鼻や口元のバランスを整える効果も期待できます。顔全体の印象を自然で調和のとれた形に導けるのが大きな特徴です。

また、下顎枝矢状分割術(SSRO)と併用して行われることも多く、上下の顎の位置関係を総合的に整えることで、より自然な顔貌と安定した機能の回復を目指します。

オトガイ形成術(顎先の位置を整える手術)

オトガイ形成術は、顎先(オトガイ)部分の骨を前後・上下に移動させて、形や位置を整える手術です。下顎全体ではなく顎先のみを調整するため、咬み合わせへの影響が少なく、主に顔貌バランスの改善を目的として行われます。

顎が後退している場合には骨を前方へ移動させ、逆に顎が長い場合には短くするなど、骨の一部を削ったり固定位置を調整したりして自然な輪郭に整えます。顔の中心ラインを整えることで、横顔のバランスやフェイスライン全体の印象を改善する効果もあります。

外科矯正手術と併用されることも多く、機能面を補いながら審美的にも整った顔立ちを実現できる手術です。

関連記事:オトガイ形成術とは?手術の流れと費用、リスクを解説

外科矯正の治療の流れ

外科矯正の治療の流れ

外科矯正は、精密検査から術前矯正、手術、術後の仕上げまで段階を踏んで進められます。治療全体の流れを理解しておくと、スケジュールや負担を想定しやすくなります。

治療の流れは以下のとおりです。

  • 精密検査と治療計画の立案
  • 手術前の矯正治療(術前矯正)
  • 顎の手術(骨切り術)の実施
  • 手術後の矯正治療(術後矯正)と経過観察

それぞれについて詳しく解説します。

精密検査と治療計画の立案

外科矯正を行う前には、まずレントゲン(セファロ)やCT撮影、顔貌写真の撮影、歯型の採取などの精密検査を実施します。顎の骨格構造や歯並び、咬み合わせの状態を詳細に分析し、問題の根本を把握することが可能です。

検査結果をもとに、矯正歯科と口腔外科が連携して治療方針を立案します。骨格のずれの程度や顔貌のバランス、咬合の安定性などを総合的に評価し、手術法と矯正計画を決定します。

また、クリニックによっては3Dシミュレーションを行い、手術後の顔貌や咬み合わせの変化を事前に確認することも可能です。

手術前の矯正治療(術前矯正)

外科矯正では、手術に入る前に歯を理想的な位置へ整えるための「術前矯正」を行います。術前矯正は、骨の位置を正確に動かすための準備段階で、手術後に安定した咬み合わせを得るために欠かせない工程です。

術前矯正の期間中は、歯を正しい位置に移動させるために、あえて一時的に咬み合わせが悪く見えるように調整することもあります。見た目の変化に不安を感じる場合もありますが、手術後に理想的な咬合へと導くための大切なステップです。

術前矯正の期間はおおよそ1〜2年が目安となりますが、歯並びや骨格の状態によって個人差があります。

顎の手術(骨切り術)の実施

術前矯正が完了したら、全身麻酔下で顎の骨を切り、適切な位置に移動させて固定する「骨切り術」を行います。下顎のみ・上顎のみ、または上下両顎を同時に移動させるケースがあります。

骨の移動後は、チタン製のプレートやスクリューでしっかりと固定し、咬み合わせの安定を保ちながら骨の癒合を待ちます。これにより、見た目のバランスと機能的な咬合の両方を整えることが可能です。

手術後は数日〜1週間ほど入院し、腫れや痛みが落ち着くまで経過を観察します。術後の腫れは2〜3日をピークに徐々に引いていきますが、無理をせず安静を保つことが大切です。

手術後の矯正治療(術後矯正)と経過観察

手術後は、骨の位置が安定してから再び矯正装置を調整し、歯の細かな位置や咬み合わせを整えていきます。手術で整えた骨格に対して、歯を理想的な位置に微調整する重要な段階です。

術後矯正の期間はおおよそ6ヶ月〜1年ほどが目安とされ、経過観察を重ねながら咬み合わせの安定性を確認します。骨の癒合や筋肉のバランスを見ながら慎重に進めることで、長期的に安定した結果が得られます。

治療が完了した後も、保定装置(リテーナー)を一定期間使用し、歯並びや咬み合わせの後戻りを防ぐことが大切です。定期的な通院とメンテナンスを続けることで、機能面・審美面ともに安定した状態を維持できます。

外科矯正の費用と保険適用について

外科矯正の費用と保険適用について

外科矯正は、矯正治療と外科手術を組み合わせて行うため、一般的な矯正治療よりも費用が高くなる傾向があります。矯正装置の種類や手術の内容、入院期間などによって総額は大きく変わります。

ただし、顎変形症などの機能的な問題が原因の場合は、健康保険が適用されるケースもあります。その場合、自己負担はおおよそ40〜60万円程度が目安です。

一方で、見た目の改善を目的とした審美的な外科矯正や軽度の不正咬合に対する治療は、原則として自費診療となります。費用は総額で100〜200万円前後かかることが一般的です。

治療内容や医療機関によって費用構成は異なるため、事前に見積もりを確認し、十分な説明を受けてから治療を検討することが大切です。

外科矯正のリスク

外科矯正のリスク

外科矯正は高い効果が期待できる一方で、手術を伴うため一定のリスクを伴います。

術後には一時的な腫れやしびれ、痛み、感覚の鈍さなどが生じることがありますが、時間の経過とともに自然に回復するケースがほとんどです。

ただし、まれに神経や顎関節への負担が残る場合や、咬み合わせが完全に安定するまでに時間がかかるケースもあります。とくに下顎を動かす手術では、オトガイ神経への影響による一時的なしびれが起こることがあります。

リスクを最小限に抑えるためには、手術前後の管理と定期的な通院をきちんと行うことが大切です。医師の指示に従って術後ケアを続けることで、後戻りや合併症を防ぎ、より安定した結果を得ることができます。

まとめ

まとめ

外科矯正は、歯並びだけでは改善できない顎の骨格的なずれを、矯正治療と外科手術を組み合わせて根本から整える治療です。

受け口・出っ歯・顔の左右非対称・開咬など、骨格そのものに原因がある場合に適応され、見た目のバランスだけでなく機能面の改善にもつながります。

通常の矯正より期間は長くなるものの、骨格レベルから整えられるため高い治療効果が期待できます。

一方で、手術に伴う腫れ・しびれなどのリスクやダウンタイムもあるため、事前に十分な説明を受け、矯正歯科と口腔外科が連携する医療機関を選ぶことが大切です。

顎のズレや咬み合わせの悩みが続く場合は、一度専門医へ相談し、自分に適した治療法を確認することをおすすめします。

この記事の監修者

山之内矯正歯科クリニック 院長山之内 哲治
山之内 哲治

矯正歯科臨床38年以上の経験を持ち、外科矯正と呼吸機能改善を専門としています。口腔外科・形成外科・呼吸器内科など多領域の先生方と連携し、咬み合わせの問題を骨格から見直す必要があるのか、歯列矯正で対応できるのかを慎重に見極めた治療を行っています。

経歴

  • 1984年:岡山大学歯学部附属病院 研究生・医員
  • 1986年:光輝病院勤務、岡山大学歯学部附属病院 助手
  • 1987年:米国ロヨラ大学 Dr.Aobaのもとへ留学
  • 1998年:岡山大学歯学部 退職
  • 2000年:山之内矯正歯科クリニック 開院
  • 2004年:日本矯正歯科学会 優秀発表賞受賞
  • 2011年:日本臨床矯正歯科医会 アンコール賞受賞

鼻中隔湾曲症の確かめ方|セルフチェックや医療機関の検査方法を解説

鼻中隔湾曲症の確かめ方|セルフチェックや医療機関の検査方法を解説

「鼻中隔湾曲症かもしれないけれど、自分で確かめる方法はあるの?」

「病院ではどんな検査をするのか、事前に知っておきたい」

このような疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。

鼻中隔湾曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)は、鼻の内部で左右を仕切っている壁が曲がることで片側の鼻づまりやいびき、口呼吸などを引き起こす疾患です。セルフチェックで気づけるサインもありますが、似た症状の疾患も多いため、正確な診断には医療機関での検査が欠かせません。

この記事では、鼻中隔湾曲症のセルフチェック方法、医療機関で行われる検査の内容、似た症状の疾患との違いをわかりやすく解説します。

読めば、「自分は鼻中隔湾曲症の可能性があるのか」「病院で何を確認してもらえるのか」が理解できるはずです。

鼻中隔湾曲症とは

鼻中隔湾曲症とは

鼻中隔湾曲症とは、鼻の中央を仕切っている壁(鼻中隔)が左右どちらかに曲がっている状態を指します。

ほとんどの人に軽度の湾曲はありますが、曲がりの程度が強い場合、呼吸のしづらさや睡眠の質に影響を与えることがあります。

主な症状は、鼻づまりや片側呼吸、いびきなどです。慢性的な鼻づまりが続くと、集中力の低下や睡眠不足につながることもあるため、生活の質を大きく損ねることがあります。

症状が強い場合は、耳鼻咽喉科での診断と治療を受けることで、呼吸の改善や睡眠の質の向上が期待できます。

自分でできる鼻中隔湾曲症のセルフチェック

自分でできる鼻中隔湾曲症のセルフチェック

以下の症状が長期間続く場合は、鼻中隔湾曲症の可能性があります。

  • 片側の鼻づまりが続いている
  • 鼻の穴の高さや向きに左右差がある
  • 口呼吸・いびきが多い
  • 頭痛や集中力の低下を感じることがある

それぞれについて詳しく解説します。

片側の鼻づまりが続いている

鼻中隔湾曲症の特徴的なサインの一つが、「片側だけ鼻づまりが続く」状態です。鼻中隔が片方に曲がることで、湾曲している側の鼻腔が狭くなり、空気の通りが悪くなります。

風邪やアレルギーのように一時的なものではなく、季節や体調に関係なく慢性的に鼻づまりが続くのが特徴です。とくに、常に同じ側の鼻が詰まりやすい場合は、鼻中隔のゆがみが関係している可能性があります。

また、寝る向きによって鼻の通りが変わることもあります。横向きになったとき、下になった側の鼻が詰まりやすい場合は、湾曲の影響で気流の通りが偏っていると考えられます。

鼻の穴の高さや向きに左右差がある

鼻中隔が大きく曲がっている場合、鼻の穴の高さや角度に左右差が生じることがあります。

鏡で正面から見たとき、片方の鼻の穴が大きく見える場合や、鼻筋がわずかに片側へ寄って見える場合は、鼻中隔の湾曲が関係している可能性があります。鼻中隔湾曲症は鼻の内部だけでなく、外見にもわずかな歪みとして現れることがあるのです。

ただし、見た目だけでは「斜鼻(鼻の骨そのものが曲がっている状態)」との区別が難しいため、正確な診断には耳鼻咽喉科での内視鏡検査やCT検査が必要です。

口呼吸・いびきが多い

鼻中隔湾曲症によって鼻の通りが悪くなると、自然と口で呼吸をする習慣がつきやすくなります。とくに就寝中は無意識のうちに口呼吸になりやすく、いびきや口の乾燥、喉の痛みなどの症状を引き起こすことが多いです。

慢性的な口呼吸は、睡眠の質を低下させるだけでなく、虫歯や歯周病のリスクを高める要因にもなります。また、酸素の取り込み効率が下がるため、朝のだるさや集中力の低下を感じることもあります。

鼻づまりやいびきが長期間続く場合は、耳鼻咽喉科で鼻中隔の形状を含めて原因を確認することが大切です。適切な診断を受けることで、呼吸のしやすさや睡眠の質を改善できる可能性があります。

頭痛や集中力の低下を感じることがある

鼻中隔湾曲症で鼻の通りが悪くなると、吸い込む空気の量が減り、体内に十分な酸素が取り込めなくなることがあります。その結果、軽い酸欠状態に近い状況となり、頭痛や倦怠感、集中力の低下を感じるケースも少なくありません

また、鼻の通気が悪い状態が続くと、副鼻腔に炎症が起こりやすくなり、副鼻腔炎(ふくびくうえん:蓄膿症)を併発することもあります。これにより、顔の奥や額のあたりに重い痛みや圧迫感を感じることがあります。

鼻中隔湾曲症と似た症状のある疾患

鼻中隔湾曲症と似た症状のある疾患

鼻中隔湾曲症と似た症状を示す疾患はいくつかあり、自己判断が難しい場合もあります。誤った自己診断を避けるために、代表的な疾患を整理しておきましょう。

  • アレルギー性鼻炎
  • 慢性副鼻腔炎(蓄膿症)
  • 下鼻甲介肥大症

それぞれについて詳しく解説します。

アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎は、鼻づまり・くしゃみ・鼻水などの症状が現れるため、鼻中隔湾曲症と区別がつきにくいことがあります。花粉やハウスダストなどのアレルゲンが原因となり、鼻の粘膜が腫れて鼻腔が狭くなることで呼吸がしづらくなります。

アレルギー性鼻炎の特徴は、症状が季節や環境によって変動する点です。とくに花粉の多い春や秋、または室内のハウスダストが増える時期に悪化する傾向があります。

一方で鼻中隔湾曲症は、鼻の構造的なゆがみによる鼻づまりのため、季節や体調に左右されず片側の鼻づまりが続く点が異なります。

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)は、鼻の奥にある副鼻腔と呼ばれる空洞に炎症が長期間続く疾患です。鼻づまりや頭重感、粘り気のある鼻水、においの低下などを引き起こし、日常生活に支障をきたすことがあります。

鼻中隔湾曲症によって副鼻腔の通気や排膿が悪くなると、慢性副鼻腔炎を併発することもあります。両者は密接に関係しており、鼻づまりや頭痛、鼻声などの症状が似ているため、見分けがつきにくいのが特徴です。

とくに、黄色や緑色の粘り気のある鼻水が長く続いたり、顔の奥や額のあたりに痛み・圧迫感を感じる場合は、副鼻腔炎が関係している可能性が高いです。

下鼻甲介肥大症

下鼻甲介肥大症は、鼻の内側にある「下鼻甲介(かびこうかい)」と呼ばれる粘膜のひだが慢性的に腫れて、鼻づまりを引き起こす疾患です。アレルギー性鼻炎や乾燥、たばこ、空調などによる慢性的な刺激が原因となり、粘膜が肥大して鼻腔が狭くなります。

鼻中隔湾曲症と同じように、片側または両側の鼻づまりがみられますが、下鼻甲介肥大症は骨や軟骨の変形ではなく、粘膜の腫れが主な原因です。そのため、症状の強さが日によって変わることがあります

また、鼻中隔の湾曲と下鼻甲介の肥大が同時に起こっているケースも多く、手術による治療では両方を併せて改善することがあります。

医療機関で行う検査方法

医療機関で行う検査方法

鼻中隔湾曲症の診断では、医療機関で複数の検査を組み合わせて鼻の内部構造を評価します。主な検査方法は以下のとおりです。

  • 視診(鼻鏡検査)で形の左右差を確認
  • 内視鏡検査で曲がりの程度を観察
  • CT撮影で骨格的な変形を評価

それぞれについて詳しく解説します。

視診(鼻鏡検査)で形の左右差を確認

耳鼻咽喉科での診察では、まず「鼻鏡」と呼ばれる専用の器具を使い、鼻の内部を直接観察します。これにより、鼻中隔の傾きや粘膜の腫れ具合、鼻腔の広さの違いなどを確認することが可能です。

鼻の入り口から奥にかけてを観察することで、左右の鼻腔の形や通りの違いを把握できます。軽度の鼻中隔湾曲であれば、この視診だけでもおおよその状態を判断できる場合が多いです。

ただし、鼻の奥の方にある深い湾曲や、副鼻腔の炎症までは確認が難しいため、必要に応じて内視鏡検査や画像検査を併用して診断を進めます。

内視鏡検査で曲がりの程度を観察

鼻の奥の構造をより詳しく確認するために行われるのが、内視鏡検査です。細いカメラを鼻腔内に挿入し、鼻中隔の奥の湾曲や下鼻甲介、副鼻腔の開口部の状態まで詳細に観察します

この検査は局所麻酔を行ったうえで短時間で実施でき、痛みはほとんどありません。医師がモニターで内部の様子を確認しながら診察するため、肉眼では見えにくい部分の異常も正確に把握できます。

内視鏡検査では、鼻中隔の変形だけでなく、炎症やポリープの有無、副鼻腔の通気状態なども確認できます。治療方針を立てるうえで欠かせない重要な検査です。

CT撮影で骨格的な変形を評価

鼻中隔の曲がりが骨格的なものか、あるいは軟骨部分の変形なのかを詳しく調べるために行われるのがCT撮影です。

CTでは鼻中隔だけでなく、鼻腔全体や副鼻腔の構造を立体的に確認できるため、内視鏡だけでは分かりにくい奥の湾曲や炎症の範囲まで把握できます

副鼻腔炎や鼻茸(ポリープ)などの合併症の有無も同時に評価できるため、手術を検討する際の重要な判断材料となります。

放射線の被ばく量が少なく、撮影時間も数分程度で終わるため、身体への負担は最小限です。得られた画像をもとに、湾曲の位置や程度を正確に診断し、治療方針を決定します。

鼻中隔湾曲症を放置するとどうなる?

鼻中隔湾曲症を放置するとどうなる?

軽度の鼻中隔湾曲であれば、日常生活に支障がないケースも多いです。

しかし、そのまま放置すると鼻づまりや頭痛などの不快な症状が慢性化し、生活の質が下がる恐れがあります。

鼻の通気が悪い状態が続くと、口呼吸の習慣がつきやすくなり、喉の乾燥やいびき、睡眠の質の低下を招くことがあります。鼻腔内の換気が不十分になることで、副鼻腔炎や中耳炎などを併発するケースも少なくありません。

また、酸素の取り込みが減ることによって集中力の低下や倦怠感を感じやすくなり、仕事や勉強のパフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性があります。

長期間放置しても自然に改善することは少ないため、慢性的な鼻づまりや片側の閉塞感が続く場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診することが大切です。

鼻中隔湾曲症と歯並び・咬み合わせの関係

鼻中隔湾曲症と歯並び・咬み合わせの関係

鼻中隔湾曲症によって鼻呼吸がしづらくなると、自然と口呼吸が習慣化しやすくなります。

口呼吸が続くことで舌の位置が下がり、口周りの筋肉バランスが崩れるため、歯並びや咬み合わせに影響を与えることがあります。

とくに成長期の子どもでは、鼻づまりによる口呼吸が続くと上顎の発達が妨げられ、歯列の幅が狭くなる・出っ歯になるなどの変化が起こりやすいです。

成人でも、慢性的な鼻づまりによって睡眠中に口呼吸や歯ぎしりが悪化し、顎関節や咬み合わせに負担をかけるケースがあります。

歯並びや咬み合わせに問題がある場合は、歯科だけでなく耳鼻咽喉科と連携して原因を確認し、総合的に改善を図ることが大切です。

鼻中隔湾曲症が疑われる場合の受診先

鼻中隔湾曲症が疑われる場合の受診先

鼻づまりや片側の呼吸のしにくさ、いびきなどが長く続く場合は、まず耳鼻咽喉科を受診することが推奨されます。

耳鼻咽喉科では、内視鏡検査やCT撮影などで鼻中隔の形状を確認し、症状の原因を正確に診断できます。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎など、似た症状をもつ疾患との鑑別も行えるため、最適な治療方針を立てることが可能です。

一方で、歯並びや口呼吸などの口腔機能に影響が見られる場合は、歯科や矯正歯科と連携して治療を進めるのが望ましいです。症状や目的に応じて複数の専門医と連携し、機能面と見た目の両方から改善を図りましょう。

鼻の形のゆがみや外見上の左右差が気になる場合は、形成外科や美容外科で相談するケースもあります。

なお、山之内矯正歯科クリニックでは、鼻づまりや口呼吸が歯並び・咬み合わせへ与える影響にも配慮し、必要に応じて耳鼻咽喉科と連携した治療計画をご提案しています。鼻と咬み合わせのお悩みが重なっている方も、安心してご相談ください。

まとめ

まとめ

鼻中隔湾曲症は、左右の鼻づまりの偏りや鼻の穴の左右差、口呼吸の習慣、集中力の低下などが判断の目安になりますが、似た症状の疾患も多いです。

耳鼻咽喉科では、視診や内視鏡検査、CT検査などを組み合わせて鼻腔内部の形状を正確に評価し、必要に応じて治療方針を立てます。

気になる症状がある方は、一度耳鼻咽喉科で状態を確認してみることをおすすめします。

この記事の監修者

山之内矯正歯科クリニック 院長山之内 哲治
山之内 哲治

矯正歯科臨床38年以上の経験を持ち、外科矯正と呼吸機能改善を専門としています。口腔外科・形成外科・呼吸器内科など多領域の先生方と連携し、咬み合わせの問題を骨格から見直す必要があるのか、歯列矯正で対応できるのかを慎重に見極めた治療を行っています。

経歴

  • 1984年:岡山大学歯学部附属病院 研究生・医員
  • 1986年:光輝病院勤務、岡山大学歯学部附属病院 助手
  • 1987年:米国ロヨラ大学 Dr.Aobaのもとへ留学
  • 1998年:岡山大学歯学部 退職
  • 2000年:山之内矯正歯科クリニック 開院
  • 2004年:日本矯正歯科学会 優秀発表賞受賞
  • 2011年:日本臨床矯正歯科医会 アンコール賞受賞