小児矯正は医療費控除の対象になる?条件や申請手順を歯科医が解説

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小児矯正は医療費控除の対象になる?条件や申請手順を歯科医が解説

小児矯正は医療費控除の対象になる?条件や申請手順を歯科医が解説

小児矯正はお子様の歯並びや噛み合わせを整え、将来の健康を守る大切な治療ですが、数十万円〜百万円単位の費用がかかります。

保護者様からは支払い方法や医療費控除についてのご相談が寄せられます。結論から申し上げると、小児矯正は医療費控除の対象になることが多いです。

本記事では、小児矯正で医療費控除の対象となる費用と条件を詳しく解説します。申請方法や計算例もご紹介するので、手続きを予定している方はぜひ最後までお読みください。

医療費控除とは

医療費控除とは

医療費控除とは、1月1日〜12月31日の間に支払った医療費が一定の基準を超えた場合、超えた部分を所得から差し引ける公的制度です。

医療費控除によって課税対象となる所得を減らせるので、支払った医療費に応じて所得税や住民税が軽減され、世帯の経済的負担を軽減します。医療保険や共済、その他給付金などで医療費が補填される場合、控除額はその額を差し引いて計算します。

対象となるのは納税者本人と配偶者、生計を一にするその他の親族のために支払った医療費です。見た目を改善する美容目的の治療は対象とはなりません。

小児矯正は医療費控除の対象になりやすい

小児矯正は医療費控除の対象になりやすい

小児矯正は、お子様の歯並びや噛み合わせを整えることで発音や咀嚼機能を正常に育てることを目的としています。

見た目を整えるためだけの治療ではなく、機能を回復・改善するための治療であることから、医療費控除の対象となるケースが多いです。

▼小児矯正が医療費控除の対象となるケース

  • 噛み合わせが悪く食べ物をうまく噛めない
  • 発音に支障がある
  • 歯列やあごの成長に異常がある
  • 永久歯の位置を整える必要があるなど

機能改善が必要かどうかは、医師または歯科医師の診断に基づいて判断されます。機能面に問題がなく、見た目をきれいにしたいという理由であれば医療費控除の対象にはなりません。

参考:No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例

小児矯正で医療費控除の対象となる費用

小児矯正で医療費控除の対象となる費用

小児矯正で医療費控除の対象となる費用は次の通りです。

  • 矯正の治療費
  • 精密検査費用
  • 通院のための交通費
  • 医薬品の費用
  • 入院費

ここからはそれぞれの内訳を解説します。

矯正の治療費

矯正治療そのものにかかる費用は医療費控除の中心となる項目で、以下の内訳が対象となります。

項目内訳
診断料歯型やレントゲンなど、治療計画を立てるための費用
矯正装置の費用マウスピースやワイヤー、拡大装置など
定期調整料装置の調整やワイヤー交換など
保定装置の費用治療後の歯並びを維持するための装置

分割払いやデンタルローンであっても、その年に支払った矯正の治療費は医療費控除の対象となります。

精密検査費用

矯正治療の前段階で行われる精密検査も治療計画を立てるために必要な医療行為です。レントゲン撮影や口腔内スキャナー、歯列模型の作成なども医療費控除の対象となります。

通院のための交通費

自宅から歯科医院までの交通費も医療費控除の対象になりますが、電車やバスなど公共交通機関の利用に限られます。原則として、マイカー利用でのガソリン代や駐車場代は認められません。

公共交通機関の場合は領収書はなくても構いませんが、利用した日付や区間、金額はメモに残しておく必要があります。保護者が同伴した場合の交通費も対象となります。

医薬品の費用

矯正治療の過程で歯科医師から薬を処方された場合、その薬代も控除対象となります。

小児矯正で処方される薬の例としては、矯正装置装着後の痛みや炎症に対する鎮痛薬や、口内炎や歯肉炎を抑えるための抗生物質などがあります。

入院費

小児矯正で入院が必要となるケースは稀ですが、あごの骨格的な異常を伴う顎変形症などの症例では外科手術を伴う場合があります。その際の入院費や手術費、麻酔費用なども医療費控除の対象です。

矯正治療に付随して口腔外科との連携治療が行われるケースも、同一の治療であれば一体の医療行為として控除できます。医師の紹介状や手術記録がある場合は、申告時に添付または提示できるよう保管しておきましょう。

小児矯正で医療費控除の対象とならない費用

小児矯正で医療費控除の対象とならない費用

小児矯正において医療費控除の対象とならない費用は次の通りです。

  • 見た目の改善を目的とした矯正の治療費
  • 飲食費
  • タクシー代

ここからは医療費控除の対象外となる費用について補足します。

見た目の改善を目的とした矯正の治療費

機能面に問題がなく、見た目を美しく整えることだけを目的とした矯正治療は医療費控除の対象外です。審美(美容)目的の歯科矯正が対象とならないことは国税庁のホームページでも明記されています。

参考:No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例

飲食費

通院中に発生した飲食費は医療費控除の対象になりません。

ただし、入院が必要となるケースでは治療を行ううえで病院側が管理・提供する食事(病院食や手術前後の特別食など)は認められます。※入院中に売店などで購入したものは対象外

タクシー代

通院のためにタクシーを利用しても、その分の交通費は医療費控除として認められません。やむを得ない事情がある場合は例外的に認められることもありますが、小児矯正でそのようなケースは極めて稀です。

仮に歯科医師や病院からタクシー利用を指示された場合は、その旨を診療記録やメモに残しておくと安心です。(タクシー利用は領収書が必要です)

医療費控除の申請方法

医療費控除の申請方法

医療費控除は以下の手順で申請します。

  1. 1.必要な書類を準備する
  2. 2.書類を提出する
  3. 3.還付金を確認する

ここからはそれぞれの工程を詳しく解説します。

必要な書類を準備する

医療費控除の申請をするには、まず支払いや通院の証明となる書類を正確にそろえることが重要です。

▼必要書類一覧

書類内容
医療費控除の明細書氏名や病院、金額などの情報を記載する書類。国税庁のホームページからダウンロード可。
医療費の領収書矯正治療や精密検査などの領収書。提出は不要だが税務署から求められた際に提示できるようにしておくと安心。
交通費の利用明細領収書や利用記録など。メモでも可。
源泉徴収票勤務先から渡される年末調整の書類。
確定申告書税務署や国税庁のホームページからダウンロード可。
本人確認書類マイナンバーカードや免許証など。

医療費は家族の誰が支払っても、同一生計内であれば代表者1人がまとめて申告できます

書類を提出する

医療費控除の申請は①e-Taxで提出②税務署に提出する方法の2通りあります。

e-Tax(オンライン提出)

国税庁の確定申告書等作成コーナーから入力・提出でき、マイナンバーカードとスマホで簡単に本人確認ができます。

源泉徴収票などを読み取って入力できるため、書き間違いが少なく、還付までの期間も2〜3週間程度と比較的短いです。

② 税務署に提出

お近くの税務署に申告書と必要書類を持参、または郵送する方法です。申告期間中(通常:翌年2月16日〜3月15日)は混雑するため、早めの提出をおすすめします。

郵送の場合は、締切日必着ではなく消印有効です。

還付金を確認する

書類の提出後、内容に問題がなければ指定した銀行口座に還付金が振り込まれます。振込までの期間はe-Taxでの申請で2〜3週間程度、税務署へ提出した場合は1〜2ヶ月程度が目安です。

医療費控除は過去5年分までさかのぼって申請できます。過去に小児矯正の治療費を支払っていて申請していない場合も、領収書や明細書が残っていれば還付を受けられる可能性があります。

医療費控除の計算方法

医療費控除の計算方法

医療費控除は以下の要件を満たしていることを確認したうえで計算します。

▼医療費控除の要件

  • 納税者が、自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費であること
  • その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費であること

▼医療費控除額の算出

医療費控除額=実際に支払った医療費 – 保険金等で補填される金額 – 10万円または所得金額の5%(いずれか少ない方)

医療費控除の限度額は200万円です。支払いが同一年内であれば、複数の医療機関分を合算して申告できます。

参考:国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」

国税庁「No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」

医療費控除でいくら戻る?計算例

医療費控除でいくら戻る?計算例

医療費控除の仕組みを理解しても、実際にどのくらい戻るのかはイメージしづらいものです。ここからは医療費控除の計算例を2つ紹介します。

計算例①標準的な小児矯正(保険給付なし)

▼ケース設定

  • 所得金額(納税者本人):500万円
  • 小児矯正の費用:60万円
  • 医療保険・共済金:なし

▼控除基準額

所得500万円 × 5% = 25万円

→10万円または所得金額の5%いずれか少ない方が採用されるため、10万円

治療費60万円 − 10万円 = 50万円

医療費控除の対象となる金額 :50万円

所得税の還付金額:10万円

翌年度の住民税減額金額:5万円

このケースではおよそ15万円前後が税金として戻る計算になります。

計算例②顎変形症を伴う外科的矯正治療(入院あり)

▼ケース設定

  • 所得金額(納税者本人):700万円
  • 矯正治療費:80万円
  • 手術費・入院費(口腔外科との連携治療):50万円
  • 医療保険の給付金:20万円 ※入院給付金含む

▼控除基準額

所得700万円× 5% = 35万円

→10万円または所得金額の5%いずれか少ない方が採用されるため、10万円

治療費130万円(合算) − 保険補填分20万円 − 10万円 = 100万円

医療費控除の対象となる金額 :100万円

所得税の還付金額:23万円

翌年度の住民税減額金額:10万円

このケースでは、およそ33万円前後が税金として戻る計算になります。

小児矯正の診断書がなくても医療費控除は受けられる?

小児矯正の診断書がなくても医療費控除は受けられる?

医療費控除は医療費控除の明細書を提出すれば申請でき、診断書や治療計画書の提出は必須ではありません

歯列矯正は治療と美容目的で扱いが異なるため、治療目的であることを説明できる資料を手元に置いておくと税務署への説明がスムーズに進められます。

▼保管しておくとよい書類

  • 治療計画書
  • 見積書・契約書
  • 領収書
  • 通院記録(公共交通機関を利用した場合に交通費として証明できる領収書など)

小児矯正の医療費控除の対象年齢は何歳まで?

小児矯正の医療費控除の対象年齢は何歳まで?

小児矯正の年齢上限に明確な決まりはありませんが、一般的には永久歯への生え替わりが進む幼児期〜中学生までを対象とすることが多いです。

判断のポイントとしては「発育段階にある子どもの成長を阻害しないように行う矯正かどうか」で、年齢はその目安として扱われます。

では、高校生以上はどうかというと、歯の生え変わりがほぼ完了していることから小児矯正ではなく成人矯正として扱われることが多いです。もっとも、成人矯正も美容目的ではなく、医療上の必要性があると判断されれば医療費控除の対象となります。

まとめ

まとめ

小児矯正は噛み合わせや発音、咀嚼機能を正しく育てるための医療行為として判断されるため、医療費控除の対象になりやすい治療です。

申請の際には、美容目的でないことを示す治療計画書や領収書、通院記録などを用意しておくと手続きをスムーズに進められます。

小児矯正は高額になりやすいですが、医療費控除によって家計の負担を軽減できます。「支払いが不安」「続けられるかわからない」といった方の助けになる制度なので、正しい知識を持って上手に活用しましょう。

この記事の監修者

山之内矯正歯科クリニック 院長山之内 哲治
山之内 哲治

矯正歯科臨床38年以上の経験を持ち、外科矯正と呼吸機能改善を専門としています。口腔外科・形成外科・呼吸器内科など多領域の先生方と連携し、咬み合わせの問題を骨格から見直す必要があるのか、歯列矯正で対応できるのかを慎重に見極めた治療を行っています。

経歴

  • 1984年:岡山大学歯学部附属病院 研究生・医員
  • 1986年:光輝病院勤務、岡山大学歯学部附属病院 助手
  • 1987年:米国ロヨラ大学 Dr.Aobaのもとへ留学
  • 1998年:岡山大学歯学部 退職
  • 2000年:山之内矯正歯科クリニック 開院
  • 2004年:日本矯正歯科学会 優秀発表賞受賞
  • 2011年:日本臨床矯正歯科医会 アンコール賞受賞